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2019-08-24

【ボクシング】東洋太平洋フライ級タイトルマッチ 粉川拓也、凄絶TKO負けで王座の道を絶たれる

23日、東京・後楽園ホールで行われた東洋太平洋フライ級タイトルマッチ12回戦は、挑戦者の粉川拓也(角海老宝石)が初回にダウンを奪ったものの、その後はサウスポーのチャンピオン、ジェイアール・ラクィネル(フィリピン)の強打に追われ続け、8回57秒、左ストレートで激しくダウン。レフェリーがノーカウントで試合をストップ(TKO)した。これが11ヵ月ぶりリングのラクィネルは2度目の防衛成功。ラクィネルはタイトルを奪った中山圭祐(ワタナベ)戦を含め、日本のリングで3連続KO勝ちをマークした。

写真上=8回、王者ラクィネルの左強打に粉川は沈んだ

試合後の控え室。粉川は子供を抱き、声を上げて泣いた

 どんなに勇ましい男児とて、泣いて伏したいときもある。粉川は泣いた。試合後の控室でのことだ。タオルで何度ぬぐっても、新たに口を開くたびに涙がこぼれ出る。そして3度、同じ話をした。「移籍してから、こんなにいい環境でボクシングができて、チャンスを作ってもらえて、感謝しかない。なのに」。結びの言葉もまた同じ。「勝って恩返ししたかった」。

 OPBFでは9年前にスーパーフライ級チャンピオンになっている。日本チャンピオンには2度なった。通算7度も防衛している。さらに、その間に2度、世界タイトルにも挑んでいる。

 そういう実績を作れたのは、まるでハツカネズミの回し車のようにくるくるとリングを回転するステップの速さ、動きの中にふんだんに詰め込まれた手数の嵐だった。

 その粉川も34歳。最近の出来を見る限り、大変失礼ながら、このタイトルマッチは残り数の少ない札から、あるのかどうかわからない当たりくじをさぐりあてるようなものにも見えた。それでも自分の可能性に殉じたい。プロキャリア14年、ずっとトップを目指してきたボクサーのとことん純な本能でもあった。だから、長年親しんだジムを離れて新しい環境を求めた。そして角海老宝石ジムは、このベテランに機会を与える。

リング狭しと良く動いた粉川(左)だったが…

 しかし、もはや昔のようにはいかなかった。確かによく動いた。バックステップ、左方向へのステップ。それが攻撃にとつながらない。逃げる一方になっていく。

 初回、22歳のチャンピオンのハードな左ストレート、右フックにあおられて劣勢に立つ。ラウンド終了間際、左フックをうまく当ててダウンを奪うが、ラクィネルの勢いを止めることはできなかった。2回以降、一方的なラウンドが続く。粉川の足はよく動いたが、攻めのポジションを奪うことはただの一度もなかったのではないか。たまに見せるパンチも単発に終わっていた。

 迎えた8回、ラクィネルの左ストレートで粉川が大きくよろける。素早く追いかけたチャンピオンはさらに左2発。はじけ飛ぶように転落した粉川は大きな音を立てて、キャンバスに後頭部をたたきつけた。レフェリーは即座に試合を止める。

「試合のこと? ボディが効いたことは覚えています。ただ、いつのラウンドだったかはわかりまっせん」

 過酷な敗北だった。常に奮戦、敢闘の戦士は、実は心優しき好漢でもある。少し休んで、その後のことをじっくりと考えてほしい。

文◎宮崎正博
写真◎小河原友信

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