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2019-08-08

【ボクシング】今日、運命の東洋太平洋タイトル戦 勅使河原と大森が「人生と世界を懸けて」激突

今日8日、東京・後楽園ホールでゴングとなる『ダイヤモンドグローブ』の前日計量が7日、日本ボクシングコミッションで行われ、注目の東洋太平洋スーパーバンタム級タイトルマッチは、王者の勅使河原弘晶(29歳/輪島功一スポーツ/19勝12KO2敗2分)、挑戦者で同級3位の大森将平(26歳/ウォズ/20勝15KO2敗)が、そろってリミットの55.3kgでクリアした。

写真上=前日計量をクリアした王者・勅使河原(左)と挑戦者・大森

7連勝6KOの勅使河原、
再起後2連続KOの大森

 少年院の中で輪島功一の自伝『炎の世界チャンピオン』と出会って、世界チャンピオンになると心に決め、19歳のとき、その人生を変えてくれた “恩師” 輪島功一会長のもとでグローブを握った勅使河原。南京都高(現・京都廣学館高)3年のときに国体準優勝。日本バンタム級王者時代はNo.1ホープと期待されながら、初の世界挑戦に敗れるなど、挫折を味わった大森。お互いが「人生を懸け、世界を懸けたサバイバルマッチ」と位置づける一戦である。

 IBF世界スーパーバンタム級8位まで上昇してきた勅使河原は今年2月、関西の若きホープ入口裕貴(エスペランサ)を8回TKOで退け、初防衛に成功した。試合後、「いちばん厳しい道を進むことが世界へのいちばんの近道。国内で強いと言われている選手とやって、勝ち上がったほうが世界に行ける、そういう試合をしたい」と希望していたが、大森はまさに望みどおりの相手。「どういうやつが上に行って、どういうやつがスターになっていくか、見ているみなさんも大森自身もわかる試合になる」と意気込んだ。

 昨年は元世界ランカーのジェイソン・カノイ(フィリピン)、スーパーフライ級で2度世界に挑戦している帝里木下(千里馬神戸)を下し、WBOアジアパシフィック・バンタム級王座を2度防衛。10月に1階級上げて東洋太平洋王座決定戦を制し、地域タイトル2階級制覇を果たすなど、着実にステップアップしてきた。3年前、やはり2度の世界挑戦経験がある赤穂亮(横浜光)との熱戦を1-2判定で落としてからは7連勝6KOと勢いに乗っている。

 現在、WBC世界スーパーバンタム級15位にランクされる大森は昨年12月、元東洋太平洋王者の山本隆寛(井岡)を寄せつけず、3回TKOで完勝。強打のブライアン・ロベターニャ(フィリピン)を2回TKOで下した7月に続く再起2連続KOで復調を印象づけ、勅使河原戦で「この階級でも国内に敵はいない、大森なら世界を獲れるぞって、思われるくらいの強さを証明したい」と力強く語っていた。

 2017年4月、当時のWBO世界バンタム級王者マーロン・タパレス(フィリピン)に挑み、11回TKO負け。体重超過を犯したタパレスにアゴを割られ、長期離脱を余儀なくされた。タパレスには、15戦全勝10KOで迎えた2015年12月のWBO挑戦者決定戦で計4度のダウンを奪われる、悪夢のような2回TKO負けでプロ初黒星を喫しており、2度にわたって苦杯をなめさせられた。怖いもの知らずだった若者が「負ける怖さ」を知り、そして「世界の壁」を思い知ったことは、再び世界を目指す上で大きかったと、挫折を糧に這い上がってきたところだ。

勅使河原は神戸とフィリピン、
大森は東京で合宿

 この一戦に向け、勅使河原は4月、6月と、以前から指導を受ける元世界3階級制覇王者、長谷川穂積さんの神戸のジムでマンツーマンの合宿。恒例のフィリピン合宿に加え、中量級でアメリカを舞台に世界のトップボクサーと拳を交えた経験がある亀海喜寛さんの特別コーチも受けるなど、意欲的にレベルアップを図り、技術面の成長に手応えをつかんでいる。特に「サウスポーの穂積さんに教えてもらった対サウスポーの技術はデカい」と大森攻略に自信を深めてきた。

 大森は7月、東京の角海老宝石ジムを拠点に合宿。内山高志さん、田口良一(ワタナベ)など数々のチャンピオンに携わり、大森自身も世界挑戦の前に特別コーチを受けて以来、折にふれて指導を仰いでいる洪東植トレーナーのもとで「濃い練習ができて、しっかり(対策を)練り上げられた」と、こちらも自信を示す。この2年、フィジカルトレーニングにも力を入れており、「レベルアップしたところを見てもらいたい」とアピールを誓った。

「明日のためだけに人生を懸けてやってきた。勝てば、また僕の周りの人が僕の次の道をつくってくれる。明日の試合のこと以外は何も考えていない。大森を倒す。それだけ」(勅使河原)

「KOのイメージはできている。勝負がつくとしたら5ラウンド以内。ボクシングを盛り上げられる選手やなって、思ってもらいたいし、面白い試合を期待してもらえれば」(大森)

 独特のリズムとパンチの軌道、変則的なスタイルとハートの強さが売りの勅使河原。正統派のサウスポーと捉えられがちな大森もまた、意外性のあるパンチと度胸のよさを備えている。ともに倒せるパンチがあり、KO決着の可能性が濃厚。この試合に懸ける思いの強さも相まって、スリリングな攻防になることは必至だ。

7年越しで実現した運命の対決

決戦を前にフェイスオフ!

 このふたり、実は2012年に対戦の可能性があった。西からトーナメントを勝ち上がり、その年の全日本バンタム級新人王に輝いた19歳の大森に対し、優勝候補にも挙げられていた22歳の勅使河原は東日本新人王決勝で敗れ、あと一歩で全日本新人王決定戦のリングに立てなかった。

「7年前の新人王戦のときから意識はしていた。いつか彼のレベルに追いつけば、対戦もあるかな、と。少し前までの僕なら勝てなかったと思うが、今は違う」(勅使河原)

「新人王の予選の段階から勅使河原選手が上がってくるやろうと聞かされていた。結局は手を合わさずに終わったけど、こういう形で当たることになって。やる運命やったんかなって」(大森)

 この間、それぞれボクサーとして、人間として、さまざまな経験をしてきた。人生を懸け、世界への生き残りを懸けて、7年越しに拳を交える。

取材・文◎船橋真二郎

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