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2019-07-27

【海外ボクシング】ウィークエンド・プレビュー スーパーライト級で若き王者同士が統一戦

今週の目玉カードはふたつ。最初はDAZNで日本にもストリーミング中継されるWBC・WBOの世界スーパーライト級王座統一戦だ。WBC王者ホセ・カルロス・ラミレス(アメリカ)とWBO王者モーリス・フッカー(アメリカ)の顔合わせになる。ともに不敗で、20代の勢いもある。攻撃型のラミレスに、技巧に冴えを見せるフッカーと、相性的にも試合は盛り上がりそうだ。さらに、スーパーフェザー級でずば抜けた能力を見せつけているジャーボンタ・デービス(アメリカ)も生まれ故郷のアメリカ・メリーランド州ボルチモアでIBF王座5度目の防衛戦に臨む。

写真上=ホセ・カルロス・ラミレス(右)

7月27日/カレッジパーク・センター(アメリカ・テキサス州アーリントン)

◆統一戦はファーストステップ。大一番に近づくのはラミレスかフッカーか

★WBC・WBO世界スーパーライト級王座統一戦12回戦
ホセ・カルロス・ラミレス(アメリカ)対モーリス・フッカー(アメリカ)

ラミレス:26歳/24戦24勝(16KO)
フッカー:29歳/29戦26勝(17KO)3分

※日本時間28日午前10時よりDAZNでライブ配信

 DAZNの登場で、世界王座統一戦の数が大きく増えつつある。スーパースターは別にして、それらに次ぐ存在は、自前の世界タイトルを既得権益としてご後生大事に抱え込んできたもの。若く、魅力ある若手チャンピオンたちは分散したまま防衛戦を重ね、ビッグチャンスをじっと待ち続けてきた。ところが、ボクシング界に新たに登場したスポーツ専門のストリーミング・ステーションは、勢いがつき始めたころ合いからどんどんとつぶしあいを提案する。そして、勝ち残ったものにメガマッチのチャンスを提供するのだ。

 スーパーライト級はWBSS決勝を争うジョシュ・テイラー(イギリス)にレジス・プログレイス(アメリカ)がともにスター候補として存在する。近将来的にはテオフィモ・ロペス(アメリカ)も参入してくるだろうし、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)やマイキー・ガルシア(アメリカ)などのビッグネームもやがてこのクラスを主戦場にすると観測されている。さらに、思わぬ敗北を喫したものの、日本でカムバック戦を行うホルヘ・リナレス(ベネズエラ/帝拳)もトップ戦線復帰を虎視眈々とうかがう。だからこそ、ラミレス、フッカーともどもこの統一戦をひとつのステップにして、存在感を示したい。

 ラミレスは179センチと大柄ながら、攻撃型として仕上がりつつある。2012年のロンドン五輪代表のトップアマチュアながら、プロ入り後はなかなか高評価にありつけなかった。が、昨年春、強打者として知られたアミル・イマム(アメリカ)に快勝して世界王座にたどり着き、だんだんと知名度を広めてきた。地元のカリフォルニア州フレズノでは爆発的な人気も誇る。この一戦は名前を全国区にするための絶好のチャンスだ。

モーリス・フッカー

 一方、試合地アーリントンの隣町ダラス出身のフッカーは、世界戦4戦目で初の地元への凱旋になる。アマチュア実績はダラスの地区チャンピオンに過ぎず、無名のままプロ入りして長い下積みの後に上位に這い上がった。敵地イギリスでサウスポーのテリー・フラナガンに勝ってWBOチャンピオンとなり、初防衛戦ではトップランク期待のアレックス・サウセド(アメリカ)を一方的にストップして評判となった。やや線が細く、ここぞの攻撃力もやや物足りないが、センスは豊かで、これからもっと戦力に厚みを加えてくるはずだ。

 ラミレスのしつこい仕掛けに乗らなければ、フッカーのアウトボクシングが光るはず。ただ、安易に打ち合う展開に乗ってしまうと、カリフォルニア育ちのメキシカンに押し切られてしまう可能性もある。序盤の展開が大きく結果を左右をする。

◆技巧派サウスポー、ファーマーの年間4度防衛なるか

★IBF世界スーパーフェザー級タイトルマッチ12回戦
テビン・ファーマー(アメリカ)対ジェローム・フレノ(フランス)

ファーマー:28歳/35戦29勝(6KO)4敗1分1NC
フレノ:35歳/48戦46勝(12KO)1敗1分 

テビン・ファーマー(右)

 会場のテキサス大学アーリントン校所有のアリーナ、7000の椅子は、ほとんどがフッカーのファンで埋まるのだろう。だが、前座に出場するファーマーのボクシングは、そんなよその人々も十分に楽しませてくれるだろう。KO数が示すようにパワーは乏しいが、攻防のテンポがとても速く、見ていて飽きが来ない。

 そのファーマー、とにかくアクティブ。昨年8月の王座獲得以来、これが4度目の防衛戦になる。DAZNスタート時からの顔として、存分に働いているわけだ。

 挑戦者フレノは長いキャリアを持つが、ヨーロッパ以外の試合は今回が初めて。6年前にデニス・ボスキエロ(イタリア)に敗れて以来、負けはないが、これといった強豪との対戦もない。昨年12月、イギリス遠征でアイルランドの不敗のホープだったジョノ・キャロル(前線でファーマーに判定負け)と引き分けて、エディ・ハーン・プロモーターの心に初めて止まった。

 自在な展開力を持つファーマーが、無難にペースメイクしていきそう。中盤過ぎまでにストップできれば、なお望ましい。

◆ウィリアムスに大事なテストマッチ

トレメイン・ウィリアムス

 スーパーバンタム級のホープ、トレメイン・ウィリアムス(アメリカ/26歳/18戦18勝6KO)が、上位進出の切符をかけてテストマッチに臨む。USBA全米チャンピオンシップで対戦するのはベテランのジェニフェル・ビセンテ(ドミニカ共和国/33歳/35勝27KO3敗2分1NC)。このところ10連続KO勝ちのハードヒッターだ。

 ウィリアムスは小柄ながら、俊敏なサウスポーでシャープなパンチで攻め立てる。一撃の迫力が加わればスター候補の一角に数えられるようにもなろう。悪くてもビセンテのパンチをうまくかわし、得意のアウトボクシングで翻弄したいところだ。

モフラディン・ビヤルスラノフ(右)

 スーパーライト級4回戦には注目のモフラディン・ビヤルスラノフ(カナダ/24歳/3戦3勝3KO)が出場する。ロシア国内で迫害されるチェチェンの血をひくビヤルスラノフはリオ五輪にも出場したアマチュアスター。切れ味のいいパンチを持つサウスポーで、デビュー前から大きな注目を集めてきた。初めてメジャーファイトの前座出場となる今回は、素質の片りんをちらりとでも見せてほしいもの。

7月27日/ロイヤルファーム・アリーナ(アメリカ・メリーランド州ボルチモア)

◆地元登場で張り切るデービスはパナマの強打者と対戦

★IBF世界スーパーフェザー級タイトルマッチ12回戦
ジャーボンタ・デービス(アメリカ)VSリカルド・ヌニェス(パナマ)

デービス:24歳/21戦21勝(20KO)
ヌニェス:25歳/23戦21勝(19KO)2敗

※Showtimeで全米中継

ジャーボンタ・デービス

 今、このときを見逃したら、きっと損する。そんなボクサーのひとりがデービスだ。このサウスポー、なによりもセンスがすごい。なおかつ、パンチがとことん強烈だ。すべてのパンチがカウンターのタイミングで急所を貫いていく。プライベートではとやかく言われるが、きちんと管理された生活をしていけば、これから10年はスーパーな存在であり続けるのは間違いない。

 そのデービスが6年ぶりに地元のリングに帰ってくるのだが、このボルチモアのボクシングはずっと火が消えたようだった。1961年に建造されたロイヤルファーム・アリーナ(旧ボルチモア・シビックセンター、ボルチモア・アリーナ)は1万1000人、セットアップの仕方では1万4000人収容の老舗アリーナながら、プロボクシングで使用されるのは5年ぶり。もっと小さな会場で試合が行われたのも、この3年間で2度しかない。だから関係者としても、スーパースター候補と言われるまでになったデービスの登場で一気にヒートアップさせたいところ。

 対戦するヌニェスは世界的な知名度はまだまだでも、中米ではトップクラスのハードヒッターとして、熱心なファンの間では話題になっていた。アメリカ招聘も何度か画策されたが、実現できないまま世界戦が初の大国デビューとなる。

 ヌニェスがいかに危険な存在だとしても、デービス優位の予想は外せない。一戦ごとに凄みを増すミラクルボーイが多角的なコンビネーションで、どのラウンドで仕留めにかかるかが最大の焦点とみる。

◆オールドネームの激突にも注目

ユリオルキス・ガンボア(左)

ローマン・マルティネス

 ファンの間では根強い人気を持つ元2階級制覇世界王者ユリオルキス・ガンボア(キューバ/37歳/29勝17KO2敗)とタクティカルなファイトでWBO世界スーパーフェザー級王座を3度も手にしたローマン・マルティネス(プエルトリコ/36歳/30勝18KO3敗3分)がライト級10回戦を戦う。

 身体能力の高さをフルに活かしたアクロバティックなファイトが身上のガンボアも、このところは不安定な戦いが目立つ。堅実なマルティネスが不用意なパンチをもらわなければ優位に戦うとみるが、さてどうか。

リチャードソン・ヒッチンス

ディラン・プライス(右)

 この日はこのガンボア対マルチネス戦を含めて10回戦が6組。8回戦が4組のマラソン興行。最近は実質2部興行で開催することの多いPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオン)らしい。レダリアス・ミラー(アメリカ/26歳/19勝6KO1敗=ライト級)、リチャードソン・ヒッチンス(アメリカ/21歳/9戦9勝5KO=スーパーライト級)、ディラン・プライス(アメリカ/20歳/8戦8勝6KO=スーパーフライ級)らの有望株も出場するが、カムバックを志す挫折組や、ベテラン、地元のホープとさまざまな人材が起用される。ビジネス面では何かと注文を付けられてきたPBCだが、最近のプロモーションはなかなか人情派である。

 

◆ベルムデスが19度目の世界戦

 WBO女子世界バンタム級チャンピオン、ダニエラ・ロミーナ・ベルムデス(アルゼンチン/30歳/25勝7KO3敗3分)がバレリア・ペレス(メキシコ/26歳/12勝2KO6敗)相手に同タイトルの3度目の防衛戦を27日、アルゼンチン・サンタフェ県ロサリオで行う。

 日本で高野人母美と戦ったこともあるベルムデスは世界のトップリングからはなかなか声がかからないが、アルゼンチンでは抜群の実績を誇る。ライトフライ級からバンタム級までの4階級の世界王座を奪い、これが19度目の世界戦にもなる。ちなみにふたりの姉と妹の4姉妹がプロボクサー。何かと話題は豊富だ。

 ペレスの戦歴を見る限り、今回の試合、ベルムデスの絶対有利は揺るがない。

◆オペタイアに厳しいテストが続く

ジェイ・オペタイア(右)

 オーストラリア・クルーザー級期待のジェイ・オペタイア(24歳/17戦17勝14KO)は27日、オーストラリアのシドニーでニコラス・チャラランポアス(ニュージーランド/26歳/18勝8KO2敗)と10回戦を戦う。

 世界ジュニア選手権優勝、ロンドン五輪出場など輝かしいアマチュア実績を手に提げてプロ入りしたオペタイアは、スピード豊かでパンチの切れ味もずば抜けている。ただ、体力面で課題を残す。一時、ヘビー級で戦っていたが、今は10キロ以上も減量し、クルーザー級を主戦場とする。ルーツを地中海のキプロスに持つチャラランポアスもヘビー級とクルーザー級を行き来する技巧派。白星街道は続いても、いまひとつピリッとしない最近のオペタイアの戦いに注目したい。

◆南アフリカで5組の12回戦

 28日、南アフリカ・イーストロンドンの日曜日午後になんと5組の12回戦が組まれる。IBF、WBOのマイナータイトルが3つ。南アフリカのナショナルタイトルマッチが2つ。一時、まったくの不調だった南アフリカのボクシングは回復途上だが、その小さな勢いを後押ししようという企画だ。

 一番の注目はIBFインターコンチネンタルのスーパーバンタム級タイトルマッチ。ロデュモ・ラマティ(南アフリカ/27歳/15勝9KO1分)がベテランのリッチー・メプラナム(フィリピン/32歳/34勝9KO7敗1分)と対戦する。

 ラマティはルイス・メレンデス(コロンビア)、アレクシス・カボレ(ブルキナファソ)らの老練をフルマークで退けた気鋭のホープ。メプラナムも3連続ストップ負けから這い上がって3連勝と意欲十分。もう一段ギアを上げて、望みが世界に届くかどうか。ラマティにとっては今後を占う戦いになる。

文◎宮崎正博
写真◎Getty Images

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