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2023-03-18

【相撲編集部が選ぶ春場所7日目の一番】「ワンチャン」あるか!? 全勝対決制した翠富士、ただ一人の勝ちっ放しに

髙安との全勝対決を突き落としで制した翠富士。ついに幕内単独トップに立った

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翠富士(突き落とし)髙安

この日から貴景勝が休場。土俵の上から横綱・大関が一人もいなくなってしまった(何でもこれは明治時代以来の事態らしいが)。今場所最大の焦点だった貴景勝の綱取りが消え、注目は優勝争いに絞られる形になっていくが、その優勝争いの行方を占う上で大きな一番がこの日あった。平幕の髙安と翠富士の全勝対決だ。
 
過去は一度の対戦で、翠富士が突いて出たところを髙安が突き返し、翠富士の引きに乗じて突き出し。髙安が勝っている。
 
立ち合い、翠富士は横の動きもあるだけに髙安がどういくか注目されたが、いつものように右カチ上げで当たっていった。ただ、やはり相手への警戒があったのか、相手をはじき飛ばすほどの威力はなく、「自分のほうが小さいので、下から当たっていくようにした」という翠富士に、脇の下からあてがわれて互角の立ち合いになってしまった。翠富士は右手も相手の脇にあてがい、左は動かしながら相手の脇やヒジ、腕に当てて自分の距離を保ち、突き放しを防ぐ。髙安は何とか押そうとするが、だんだん上体が上ずり、「足が出なかった」(髙安)という形に。相手を止めることに成功し、「肩透かしを狙っていた」という翠富士は、機を見て右から突き落とし。肩透かしではなかったが、見事に決まり、全勝対決を制した。
 
この日はともに全勝で走っていた大栄翔が若元春に突き落とされて土。翠富士は幕内ただ一人の全勝力士となった。
 
身長171センチ、体重117キロと、幕内きっての小兵。ただそれだけに、負けん気の強さは折り紙付き。大関にも臆せず張り合った先場所の貴景勝戦は記憶に新しいところだ。

過去の実績からすると、幕内上位での勝ち越しも一度、3枚目での8勝7敗があるだけなので、優勝争いの中では伏兵と言えるが、「静岡出身の力士が優勝したら初めて」と聞かされ、「ホントですか? できればそうなりたいとは思いますね」と答え、「基本的に、常に“優勝できたらな”とは思いますけど、まあそんなうまくはいかないんで」と笑う姿からは、優勝争いへの気負いも気後れも感じさせない。
 
ちなみに同部屋の横綱照ノ富士からは、優勝について、「まださすがに気は早いけど、頑張れよ。ワンチャンあるぞ。たぶん無理だけどな、ワハハ」と笑いながら激励されているという。
 
そう、翠富士の部屋には横綱がいるのだ。後半戦はどんどん上位陣と当てられることも予想され、このままどこまでも勝ち続けるとは正直予想しづらいが、かといって上位と当てられたら勝てない、という力士ではない。「髙安関のカチ上げは怖くないか」と問われ、「威力はありますけど、(自分は)横綱と稽古場でやっているんで」と答えた翠富士。気負いなし、気後れなし。横綱との稽古の貯金あり。何しろ横綱・大関のいない場所だ。ワンチャンと言わず、ツーチャン以上あるかもしれない。

文=藤本泰祐

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