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2023-05-03

変形性ひざ関節症教室 第15回 変形性ひざ関節症の痛みの原因② 「微小骨折」による機序

 ひざは健康寿命延伸の要の関節。ところが、中高年になると、ひざ関節の軟骨がすり減り、「ひざが痛い」「水がたまる」「痛くて長く歩けない」「ひざか変形した」などといった症状に悩む方が増えてきます。本連載では、ひざの専門医・田代俊之ドクターが、変形ひざ関節症の症状と治療について、やさしく解説していきます。さて、軟骨には神経細胞がないのになぜ軟骨がすり減ると痛むのでしょうか。前回(連載14回)、変形性ひざ関節の痛みの機序1つである「滑膜の炎症」について紹介しました。今回は、もう一つの機序である「微小骨折」についてです。

微小骨折による痛み

 軟骨がすり減り弾力性が失われると、軟骨の下にある骨への衝撃が増えてきます。歩くたびに大腿骨と脛骨に衝撃がかかれば、やがて骨に微小骨折が起こります。骨には神経があるため、微小骨折によって痛みを感じます。

 変形性ひざ関節症が進み軟骨や半月板が消失すると、骨がけずれたり、反対に硬くなったり、骨の縁に骨棘(トゲ)ができたりします。変形性ひざ関節症の中期以降の痛みには、骨の変形が関与していると考えられます。

  ところで、軟骨がそれほどすり減っていない人が、急に歩きすぎたり運動したりした後にひざが痛くなってMRIを撮ると骨髄病変が見られることがあります(後の連載で紹介)。急激な骨への負荷で起こる骨髄病変では骨髄内の出血が考えられます。数カ月の安静で痛みは消失しますが、変形性ひざ関節症が進む可能性があります。


イラスト:庄司猛

神経の感作(疼痛感作)

 
 ところで痛みはどのように伝わり、脳で感じるのかご存じでしょうか。ひざでは、滑膜、骨、半月板などで痛みを感じ、痛みのシグナルが末梢神経を通って脊髄に伝わり、脊髄から脳へと伝わって、ひざが痛いと感じます。


 一方、神経には痛みを感じにくくするブレーキシステムが存在します。下降性疼痛(とうつう)抑制系神経と呼ばれるこの経路は、脳から脊髄を下降し、過剰な痛みの伝達を抑え、過剰な痛みを和らげる作用があります。ところが、この作用がうまく働かず、痛みを過剰に感じ、痛みが長引きやすい人がいます。
 
 痛みが慢性化すると、痛みに対する神経系の感受性が過敏になります。通常なら痛くないはずの痛みでも痛く感じたり、痛みの刺激をより強く感じたりします。この作用を「感作(かんさ)」と呼びます。病気の初期ではあまり問題にはなりませんが、痛みが長期化すると痛みの原因の一つとなります。


 イラスト:庄司猛

プロフィール◎田代俊之(たしろ・としゆき)さん
JCHO東京山手メディカルセンター整形外科部長
1990年山梨医科大学卒業後、東京大学整形外科入局。東京逓信病院、JR東京総合病院勤務をへて、2014年に東京山手メディカルセンターへ。2017年4月より現職。ひざ関節の疾患を専門とし、靭帯損傷、半月板損傷、変形性関節症などについて、長年にわたって幅広く対応している。2004年より中高齢者に向けたひざ痛教室を毎月開催している。日本整形外科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。陸上競技実業団チーム(長距離)のドクターも務める。

この記事は、ベースボール・マガジン社の『図解・即解!基礎からわかる健康シリーズ 変形性ひざ関節症』(田代俊之著、A5判、本体1,500円+税)からの転載です(一部加筆あり)。 Copyrightⓒ2022 BASEBALL MAGAZINE SHA. Co., Ltd. All rights reserved.

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