写真上=12年の空白を越え、北海道畠山ジムに初の新人王をもたらした若木(写真◎ボクシング・マガジン)
力まかせに荒馬を乗りこなしたような4ラウンドだった。32歳の若木忍(北海道畠山)は、力感あふれる右、左右のボディブローで、細身ながら屈強な碇瑠偉(厚木ワタナベ)をひたすら追い回す。「スタミナには自信がありました」というが、厳しい戦いだったのは間違いない。最初は2種のパンチの組み合わせになっていた攻撃は、やがて一打一打で途切れる攻めに変わる。それでも最後までパワーも、攻め数も衰えなかった。スタイルこそ違え、かつての日本ライトフライ級チャンピオンでもある畠山昌人会長の現役時代を彷彿とさせるファイトでもあった。徹底したファイターだった畠山会長が、魂の根こそぎを対戦者に投げつけるように戦った姿が脳裏に蘇った。
若木のデビューは13年前。19歳だった。奇しくも畠山会長の引退試合の前座である。しかし、引き分けに終わったこの初陣から、12年ものブランクを作ってしまう。
「首にむち打ちのような故障があって」試合をすることはかなわなかった。その間、さまざまな仕事をしたが、やがて整体師の資格を取った。そんな日々、たまたま、オープンしたばかりの北海道畠山ジムに出会った。さっそく入門を申し出る。そして再デビュー。だが、久々の戦いは判定負けに終わった。1敗1分。未勝利のまま挑んだ新人王戦。無印の三十路ファイターは持ち前のパワーとスタミナで勝ち上がり、東日本新人王にとつなげた。
畠山会長としては本来、その職業柄、専業のトレーナーとして若木に戻ってきてほしかったのかもしれない。実際、ジムではコンディショニングトレーナーの肩書きを持つ。
「(現役を続けたいという)自分のわがままを聞いてくれた会長に感謝したい。しっかりと教えてくれた阿部正人トレーナーにも」
もちろん、現役ボクサーとしては年齢的にも後がない。
「一戦一戦、タイトルマッチの覚悟で臨みます。そして勝っていきます。もちろん、トレーナーとしてもきちんと両立させます」
となりの畠山会長は、つぶやくように、だがかみしめるように言葉を紡いだ。
「ジムを開いて2年。初めてのできた“形”です」
まだまだ一歩。小さな栄光。でも――。勝って嬉しいとき、負けて悔しいとき。どのときも強面を崩さなかった。その一途な畠山会長はやはり無表情だったが、わずかに落とした視線に、今日の日の思いが込められているように見えた。
取材◎宮崎正博
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