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2023-06-02

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第9回「ウソでしょう」その3

平成25年4月6日の藤沢巡業で、相撲甚句を歌う力士たちに初老の男性が土俵に上がりご祝儀

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世の中はさまざまな矛盾にあふれています。
にわかには信じられないこともいっぱいです。
大相撲界にも「それ、ウソでしょう」と思わず頬をつねり、聞き直したくなる話があちこちに転がっています。
そんな信じられない、ホントの話を集めてみました。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

相撲甚句にご祝儀

力士は美声の持ち主が多いですね。日頃の稽古のおかげで肺活量が多いせいだ、と分かったような、分からないような分析をしてみせる人もいるが、とにかく相撲甚句なんか、歌わせると、思わず聞きほれる。
 
と、どうなるか。平成25(2013)年4月6日、神奈川県藤沢市で行われた春巡業中のことだった。巡業に相撲甚句や、初っ切りなどの添え物はつきもので、この日も現役切っての歌い手、幕内の勢(現春日山親方)をはじめ、6人のノド自慢たちが土俵上で丸く輪を作り、朗々と相撲甚句を歌い上げていた。もちろん、観客はうっとり状態で、それがまさに最高潮に達したときだった。
 
60歳前後、とみられる初老の男性が靴下のまま土俵にあがり、歌っている勢たちに近づいたのだ。驚いた呼出したちが駆け寄り、制止しようとしたが、その男性は振りほどくと、やおらサイフを取り出し、

「いやあ、うまいねえ。これはご祝儀だ」
 
と言わんばかりに力士たちに1万円札を配ってまわった。
 
いくらタニマチがご贔屓の力士にご祝儀を渡すのが昔からの習わしとはいえ、さすがにこれはまずい。すぐさま男性は呼出しに2人がかりで土俵から降ろされ、力士たちに配られたばかりの1万円札も回収されて男性に返却されたが、このとんだハプニングに力士たちはびっくり。いや、中には、もらったお札を返却させられて残念顔の力士もいたが、勢は、

「気持ちは分からないではないけど、あれをやってはいけない」
 
と大人顔をしていた。
 
気持ちって、ご祝儀を出したくなるほど自分たちの相撲甚句がうまいってことですか。ま、いずれにしろ、巡業にはいろんなことが起こる。

月刊『相撲』令和元年12月号掲載

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