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2023-05-09

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第16回「懸賞」その3 

雅山が気合を入れて金星を獲得、八百長の汚名を堂々と返上した朝青龍戦(平成19年春場所2日目)

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色とりどりの懸賞の垂れ幕が土俵上をゆっくりと回る景色は大相撲ならではと言っていいでしょう。
相次ぐ不祥事で一時は激減しましたが、平成24年初場所初日は90本もかかるなど、かなり戻ってきました。勝ち力士が手刀を切って受け取る懸賞袋の中味は1万円のピン札3枚。
力士たちにとってはありがたい場所中の臨時収入であり、何よりの応援歌です。
使い道も十人十色で、さまざまな人情ドラマも生まれます。
そんな懸賞にまつわるエピソードを集めました。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

清々しい使い道
 
懸賞は“潔白”の印にもなる。平成19(2007)年の初場所後、大相撲界は週刊誌による八百長報道で火の点いたような騒ぎになった。このとき、協会から事情聴取を受けた一人が雅山(現二子山親方)で、師匠の武蔵川親方(当時、元横綱三重ノ海)に、

「心にやましいことが無かったら、堂々と胸を張っていけ」
 
と言われ、ただ一人、それこそ一分のスキもない羽織袴の正装で臨んでいる。
 
そして迎えた春場所2日目の横綱朝青龍戦。雅山は右ノド輪で激しく攻め込み、最後は巨体を浴びせて際どく寄り倒し、およそ2年半ぶりに朝青龍から勝ち星を挙げた。このとき、東前頭3枚目で、歴代2位のスロー記録となる入幕して49場所目の初金星(1位は貴ノ浪の67場所)でもあった。

事情聴取のとき以上に大きく胸を張って引き揚げて来た雅山は、

「いろいろなことがあったので、(土俵で)結果を出さなくちゃしようがないと思い、横綱に勝つ稽古をしてきました。最後はちょっともつれたけど、神さまに後押ししてもらいました。懸賞をもらったとき、思わずガッツポーズをしてしまい、師匠に怒られるかなと思いましたけどね。男にしてもらいましたから、許してくれるでしょう」
 
と目を細め、もらったばかりの10本の懸賞の束から4本を引き抜くと、

「4人の付け人たちに1本ずつあげます。滅多にないことですから」
 
と笑顔で手渡した。意地もここまで貫けば清々しい。

月刊『相撲』平成24年2月号掲載

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