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2023-06-03

【日本選手権】「勝ちへの炎は消えない」堤雄司が男子円盤投でV10、第一人者としてU20の中断に思いも

10回目の優勝を祝う堤

6月1日から開催中のブダペスト世界選手権代表選考を兼ねた第107回日本選手権(大阪・ヤンマースタジアム長居)。2日目の男子円盤投は、日本記録保持者の堤雄司(ALSOK群馬)が57m98を投げ、5年連続通算10度目の優勝を果たした。

当日は台風の影響で大雨警報が発表され、一時競技が中断されるほどの悪天候。男子円盤投の競技開始も1時間半ほど遅れたが、それでもなお激しい雨が降りしきる。

雨からかばうように円盤をタオルにくるんで向かうサークルは水浸し。構えの姿勢から投げるまでのわずかな時間にも、大粒の雨が円盤や手を濡らす。あまりの悪条件下に誰もが苦戦する中、熟練者の判断が生きた。

「円盤が雨に濡れて、滑り止めの粉と混ざるとヌルヌルして余計滑りやすくなる。1投目が勝負だと思い、そこにすべてをかけました」

覚悟を決めて投じた円盤は、高い放物線を描いて57m98まで伸びた。3回目以降はファウル。6回目はターンの途中で足を滑らせて投てきを止め、腰を抑えるような仕草を見せたが、戦略どおり、1回目の投てきがそのまま優勝記録となった。

2012年、国士舘院1年時に初優勝を飾った日本選手権も、この長居の地が舞台だった。それから11年。思い出の地で記念すべき10回目の“日本一の称号”を手にした。

「初めて勝ったときもすごくうれしかったんですけれど、今回も変わらずうれしいですね。10回目とか5連覇とかは関係なく、一つひとつの日本選手権の試合を覚えていますし、ここまでやってこれて幸せだなと思います。日本選手権に勝ちたいと思って競技を始めたわけではなく、目の前の試合で勝ちたいとやってきたことが積もり積もって10回の優勝につながった。これは僕一人の結果ではなく、家族や仲間、指導してくださる方たちをはじめ、いろんな方々のおかげだと思っています」

高校教員で円盤投指導者だった父のもとに生まれ、陵北中1年の夏休みに初めて円盤を投げた。「そのときは1kgの円盤なのに25mくらいしか飛ばなくて。どうやってこんなに重たいものを投げるんだろうって思いました」。だが、円盤を手にした少年は、みるみるうちに成長を遂げた。中学3年でジュニアオリンピック優勝。札幌拓北高3年時に当時の高校記録も樹立し、インターハイも制した。国士舘大では日本インカレで4連覇を果たし、各カテゴリーで日本一の座をつかんできた。

キャリアを重ねてベテランの立場になり、競技に対するモチベーションも年々変化している。「5年前、10年前にあったような日本代表になって世界に行きたいという気持ちや、記録へのこだわりはありません」。今はただ、「勝ち」への執念だけが、堤をサークルへと向かわせている。

「勝ちたい。それだけですね。これまでの円盤投の選手たちの中で一番『勝ちたい』という気持ちを持ってやってきた自負はありますし、その炎だけは消えていません。とにかく目の前の試合に全力を傾けて、頑張っていきたいと思っています」

年長者として競技をけん引する立場にあるからこそ、厳しい提言も忘れなかった。

2日の記録的豪雨を見越し、同日開催予定だった女子三段跳などの跳躍種目は前日のうちに延期が決まっていた。しかし、男子円盤投の競技開始延期の連絡は、ウォーミングアップ中にきたという。また、すでに競技が始まっていたU20男子円盤投は、途中で中止となり、翌3日にサブ会場のヤンマーフィールド長居での開催に変わった。

「もちろんアクシデントはつきものなので、順延したことが悪いわけではない」と前置きしたうえで、「円盤投なんて特に手が滑って試合にならない。投てきも一日遅らせるなど事前に対応ができたのではないか。U20の選手たちが2投目で中止になったのはあまりにも可哀想すぎる。せっかく長居に来て頑張ろうと思っているのに、サブ会場で投げるのは残念だと思う」と指摘した。

「僕らは命をかけてこの競技を頑張っている。この日本選手権に向けて1年間やってきた選手たちが多いなかで、パフォーマンスを出してあげるためにももう少し早い対応や何かしらの対応ができたのではないでしょうか」

長年にわたり第一線に居続ける堤だからこそ発することのできる、仲間や後輩たちを思った提言だった。


狙いどおり1投目に57m98を投げて優勝した堤

文/荘司結有 写真/中野英聡、毛受亮介

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