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2023-06-02

【陸上】日本選手権展望<女子100mH>互いに高め合ってきた5人の12秒台ハードラー。複数名の世界選手権標準記録突破に期待

日本人初の12秒台をマークした寺田、現日本記録保持者の福部、今季日本歴代4位に名を連ねた田中(左から)

6月1~4日、大阪・ヤンマースタジアム長居にて開催中の第107回日本選手権。今季、史上5人目の12秒台選手が誕生した女子100mH。日本記録保持者から日本歴代5位の選手が雌雄を決する歴史的なレースとなる。

日本記録保持者が明かした不安

5年前、誰がこんな光景を想像しただろうか。100mHで大会前の自己記録、シーズンベストとも12秒台を持つ選手が5人も顔をそろえる。そんな夢のようなレースが日本選手権で実現する。

5人の自己記録、樹立日は以下の通り。
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12秒73(+1.1)福部真子(27)2022年9月
12秒86(-0.2)青木益未(29)2022年4月
12秒86(-0.2)寺田明日香(33)2023年5月
12秒89(+0.4)田中佑美(24)2023年5月
12秒96(+0.4)清山ちさと(31)2023年5月
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福部真子(日本建設工業)は昨年のオレゴン世界選手権では準決勝に進出した選手。そのレースでも12秒82(+0.9)と当時の日本記録、五輪&世界選手権でマークされた日本人最高記録と大健闘した。唯一人、世界選手権標準記録の12秒78も突破済み。今大会で3位以内に入れば代表に内定する。それを考えれば、気持ちに多少の余裕を持っていい。

だが、その福部が日本選手権前の会見で次のように話したのだ。

「今の心境はもう心臓がバックバクで、夜も寝れないぐらい不安です。しっかり自分の走りをして、3番以内に入るっていうところを目標に走りたいと思います」

優勝を狙って3位以内に入るのでなく、最初から3位以内を意識している。福部の控えめな性格もあったが、今季まだエンジンがかかっていないこともコメントに影響していた。織田記念は予選で12秒95(+0.6)を出したが、決勝は13秒02(+0.6)で3位。田中佑美(富士通)と青木益未(七十七銀行)の後塵を拝した。

セイコーゴールデングランプリも12秒91(+0.4)で3位。寺田明日香(ジャパンクリエイト)と田中に競り負けた。

「織田記念では右手の意識を変えた動きを、10台中何台できるかを試しました。ゴールデングランプリでは、リード脚の出し方が何台できるかをやってみました。考えながら走るレースが続いています。冬期に積んだ(昨年より大きい)エンジンが、まだ使いこなせていない、(走りやハードリングと)噛み合っていない、というのが正直なところです」

しかし危機感の中にも、数年前の福部に比べれば明らかに余裕があった。


5月のセイコーゴールデングランプリで清山(右)が新たに12秒台をマーク。このレースでは寺田が勝利したが、日本選手権で笑うのは果たして!?

女子会が記録向上の一因


この種目を現在の盛況に導いたのが、日本人初の12秒台を出した寺田である。一時は競技から離れていたが、2019年に6年ぶりに現役に復帰し、その年に12秒97をマーク。ドーハ世界選手権にも出場した。19年は寺田だけだった12秒台が、21年には寺田と青木の2人が12秒8台を出し、そろって東京五輪に出場。22年は福部が12秒7台、青木が12秒8台。そして今季は寺田と田中が12秒8台、福部、青木、清山が12秒9台と大台突破選手が雪だるま式に増えてきた。

リーダー的な存在の寺田は、自身の技術や経験を隠さず後輩たちに伝えてきた。競技続行を悩んでいた福部を、公私にわたってアドバイスしたのも寺田だった。

「いつもちょっとした女子会を開いているんです。走る前はピリピリしますけど、レース後は動画見ながらあーだこーだ話し合っています。何が問題なのか、海外の選手と自分たちは何が違うのか。みんなで考えていかないと(解決策が)出てこないので」

今季の実績では木南記念、ゴールデングランプリと、12秒86の自己新&自己タイで2連勝した寺田がリードしている。勢いがあるのが、今季自己記録を0秒23秒も更新した田中だ。高校、学生時代から特徴だった勝負強さを発揮すれば、シニアの日本一も十分あり得る。そして日本選手権前最後の試合で12秒96(+0.4)を出した清山ちさと(いちご)は、31歳のベテラン。初12秒台が30歳以上の選手は日本人初で、タイムの安定性だけでなく、メンタル面でも良い状態で日本選手権に臨めそうだ。

誰が勝っても周りはその選手を祝福できる。そういう雰囲気があるから、ピリピリ感はあっても萎縮しないで思い切り力を発揮できる。12秒78の世界選手権標準記録を、複数選手が突破するようなハイレベルの決着を期待したい。

文/寺田辰朗 写真/黒崎雅久

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