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2023-08-01

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第18回「リラックス法」その2

ピンチを脱し、一気に横綱まで駆け上がった曙。昇進パーティ(平成5年4月20日開催)には、ハワイから両親も駆けつけ祝福。父は壇上で号泣した

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負けまいとしている相手に勝つという作業は容易なことではありません。
横綱白鵬は「全身全霊」という言葉が好きでしたが、まさに持てる力の最後のひと絞りまで注ぎ込まないと白星をもぎとることはできません。
とは言え、15日間、同じように闘争心をかきたて、土俵に集中するというのも鉄人ワザです。
力士たちはどこでどんなふうに張り詰めた心を解き放ち、また前日にも勝る闘志を燃やすのでしょうか。
あのとき、あの力士がやったユニークなリラックス法を紹介しましょう。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

お台場の潮風
 
突然、深い落とし穴に落ち込み、必死に這い上がろうとするが、なかなか這い上がれず、なんとももどかしい思いをしたことはありませんか。史上初の外国人横綱、ハワイ出身の曙にとって大関2場所目の平成4(1992)年秋場所がまさにそうだった。

初優勝を手土産に大関に駆け上がり、大関デビューの日が目前に迫っていた名古屋場所前の稽古中、右足小指を骨折し、全休。これですべての歯車が狂い、いきなり大関デビューがカド番になった秋場所も3勝1敗の5日目から5連敗。9日目を終えて3勝6敗という負け越し寸前、大関陥落目前の窮地に追い込まれたのだ。

その夜、やること、なすこと裏目、裏目と出て、すっかりしょげ返っている曙を見るに見かけた知人が東京湾のお台場に連れ出した。当時のお台場はビルやマンションなどが林立する現在とは違って、静かな波が打ち寄せる小さな入り江だった。曙はこの人気のない渚で懐かしいハワイの海と同じ潮の香をたっぷり吸い、知人が差し入れてくれたホットドッグを頬張り、気を取り直した。

このお台場散歩の効果はてきめんだった。曙は翌10日目から手のひらを返したように突っ張って前に出る持ち前の攻撃相撲を取り戻し、千秋楽まで6連勝して負け越しのピンチをクリア。さらに、続く九州場所、翌平成5年初場所と2場所連続優勝して一気に横綱に昇進した。

曙は、この心身ともにどん底状態だったとき、お台場に連れ出してくれた知人を“心の家族”として慕い、その後も親交を重ねた。

月刊『相撲』平成24年4月号掲載

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