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2023-07-04

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第18回「リラックス法」その1 

ゴルフを楽しむ千代の富士。オンとオフの切り替えのうまさが、土俵上での集中力につながっていたのかも

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負けまいとしている相手に勝つという作業は容易なことではありません。
横綱白鵬は「全身全霊」という言葉が好きでしたが、まさに持てる力の最後のひと絞りまで注ぎ込まないと白星をもぎとることはできません。
とは言え、15日間、同じように闘争心をかきたて、土俵に集中するというのも鉄人ワザです。
力士たちはどこでどんなふうに張り詰めた心を解き放ち、また前日にも勝る闘志を燃やすのでしょうか。
あのとき、あの力士がやったユニークなリラックス法を紹介しましょう。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

ウルフの執念
 
優勝回数31。「小さな大横綱」と呼ばれた横綱千代の富士はまた、気分転換の名人でもあった。土俵を離れるとゴルフや陶器作りに興じ、引退して1カ月後の平成3(1991)年6月には千葉県の柏GCの6番ショートホール(178ヤード)でホールインワンも記録している。

力士としての全盛期は、昭和59(1984)年の末から平成元年にかけてのおよそ5年間だ。そのちょうど真ん中にあたる昭和61年4月、千代の富士は部屋の2階にある大広間で、風呂から上がったあとや、ちょっとした空いた時間を利用してジグソーパズルを始めた。5146ピースもある古い世界地図で、眺めているだけでもため息が出るような超複雑なものだった。

しかし、千代の富士は1ピースずつ、手にとっては、ああでもない、こうでもないと根気良くはめ続け、ついに開始から8カ月後の昭和62年の初場所中に完成にこぎつけた。このときの千代の富士の喜びようは大変なもの。

「要は諦めないことだよ」

と支度部屋で誇らしげに自慢している。

このジグソーパズルによる気分転換の効果は絶大。なんと取り組み始めた直後の夏場所を皮切りに、九州場所と連覇。ようやく最後の1ピースをはめ、手を叩いて喜んだ初場所も優勝決定戦で横綱双羽黒を高々と吊り出して自己最多となる5連覇を達成した。このとき、31歳。当時の春日野理事長(元横綱栃錦)は、

「この相撲ならあと2、3年は大丈夫だな」

と太鼓判を押したが、2、3年どころか、貴乃花(当時貴花田)との世紀の新旧交代劇に破れ、引退したのは4年後のことだった。

月刊『相撲』平成24年4月号掲載

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