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2023-09-05

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第19回「気合」その2 

先代佐渡ケ嶽親方(元横綱琴櫻)と引退会見に臨んだ琴錦。今の相撲ではお客に申し訳ないと思ったのはけっして強がりではなかった

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暑さの続く夏、こういうときは行動を起こすのも大変ですが、そこは気合です。
一念発起、気合を入れてとりかかれば、不可能なことも可能になり、新たな道が開けるってもんです。
現に、そうやって活路を開いた力士がいるんですから。
そんな気合のエピソードを紹介しましょう。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

名人肌の矜持

力士が引退する理由はさまざまだ。出足、スピード、力、勘の良さで大向こうをうならし、史上最多の2回も平幕優勝を果たしている琴錦(元関脇、現朝日山親方)が平成12(2000)年秋場所8日目に引退した最大の理由は、

「あんな相撲じゃみっともなくて、足を運んでくれたお客さんに失礼だ」

と、いうものだった。さらにこんなことも話している。

「今、もし幕内上位で取れ、と言われたら、それなりに取れるかと思います。だが、与えられているのは十両の番付(最終場所の番付は東十両筆頭)。もう力は出ません」

勝てなくなったからではなく、自分の追い求める相撲とは、ほど遠い相撲しか取れなくなった自分がなんとしても許せなかったのだ。名人肌力士のプライドと言っていい。これが決して単なる強がりや、ええカッコしでなかったことを、琴錦はそれから5年後の平成17年名古屋場所前にみごとに証明してみせた。すでに37歳になっていたが、なんとバリバリの現役、10歳も若い西十両8枚目の琴春日と、

「おい、ちょっとやろうか」

と最初は冗談半分で申し合いを行い、18番取って14勝4敗と圧勝したのだ。この遊びにしては多すぎる番数に2人の気合の入り具合が滲み出ている。

「最初の一番はこっちの完敗でした。それで尻に火がつきましてね。廻しを締めたのは前年の春以来。体重も、現役のときより30キロも落ちていましたけど、すぐ向こうの戦法や弱点が分かりましたので、その逆をついて連勝。最後は向こうのスタミナ切れ。股関節も痛めていたので、じゃあ、止めようか、と言っておしまいにしました。まだまだ。今なら、貴乃花関とやっても自信がありますよ」

と笑った。

貴乃花は、引退会見で、「2度目の平幕優勝した平成10年九州場所13日目、左を巻き替えて勝った思い出の相手」として名前を挙げた力士で、150キロもあった体重が90キロに激痩せし、弟子たちに胸を出している姿が注目を集めたばかりだった。

月刊『相撲』平成24年5月号掲載

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