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2023-09-01

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第12回「泣いたり笑ったり」その2

平成27年春場所8日目、栃ノ心は日馬富士を叩き込み、初の金星を獲得

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人生って、おもしろいですね。
いいこともあれば、悪いこともある。ホラ、よく言うじゃありませんか。降り止まぬ雨はないし、朝の来ない夜はないって。
どんなに辛いことがあったって、いつかは笑い話に変わる日もやって来ます。
決して捨て鉢になってはいけないってね。
みんな、泣いたり、笑ったりしながら生きているんですよ。
力士たちもまさにそうです。たとえ自分の思うようにいかなくても、あきらめずにコツコツとやっていれば笑う日が来ると信じているからこそ、がんばれるんです。
そんな泣き言と笑い話が背中合わせのエピソードです。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

どん底から復活

力士にケガは付き物だとはいえ、大ケガを負った力士は悲劇のどん底に突き落とされる。平成25年名古屋場所5日目、西前頭11枚目だった栃ノ心は右ヒザの靱帯を断裂する大ケガを負った。すぐさま手術。2カ月に及ぶ入院生活や、リハビリのために4場所も連続休場を強いられたが、その間に番付はドンドン下がり、平成26(2014)年春場所、土俵に戻ってきたときは幕下の半分より下の西幕下55枚目になっていた。もちろん、130万円あまりもあった給料もゼロだ。
 
入院中、ちゃんこの味が恋しくて、退院して部屋に戻ると、

「まず腹いっぱいちゃんこを食べた」
 
と栃ノ心は話しているが、このどん底からの巻き返しはおみごとの一言に尽きた。幕下2場所、十両2場所の4場所、連続優勝してその年の九州場所には早くも幕内に返り咲いたのだ。そして、再入幕して3場所目の平成27年春場所、西前頭4枚目まで戻った栃ノ心は、8日目、日馬富士を叩き込んで金星を挙げた。
 
これが初の金星だった。地獄を見た男の大殊勲に、館内の拍手、歓声はなかなか鳴りやまず、栃ノ心も、涙こそこぼさなかったものの、万感込めてこう言って自らの“全快”を祝った。

「10年ぐらい相撲をやっているけど、この勝ちが一番うれしい。まさかこういう日が来るとは思わなかったなあ」
 
笑い神はあきらめずにがんばった者に訪れる。

月刊『相撲』令和2年3月号掲載

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