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2017-07-03

羽生結弦を応援する人には どんな傾向があるのか考えてみた

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 5月2日発売の『フィギュアスケート・マガジン 2016-2017シーズンファイナル』誌上でご案内した「世界選手権 選手名シート」プレゼントのご応募を、6月30日消印をもって締め切らせていただいた。ヘルシンキでワン・ツー・フィニッシュを果たした羽生結弦、宇野昌磨の会見で実際に使用されたものをISUスタッフのご厚意によりいただいたのだが、予想より多くのハガキが届き、編集部一同、感激しているところだ。

 応募に際してはさまざまなデータ、ご意見をお書き添えいただいた。皆さんには手間をおかけしてしまったが、雑誌をつくる上で、読者の方の生の声ほど貴重なものはない。

 一口に「フィギュアスケート・ファン」といっても、さまざまなタイプの人がいる。「テレビで見れば十分」「雑誌は買わない」という人も当然いるだろう。私たちが第一に考えなくてはならないのは、「フィギュアスケートが好き」で、なおかつ「気に入った内容の雑誌であれば購入してもいい」と考えている方がどんな要望をお持ちなのか――そこに尽きるといっていい。「私たちがおいしいと感じる料理をお客さんに食べてもらうんだ」というのと、「お客さんがおいしいと感じる料理を私たちが作るんだ」というのは、似ているようで大きく違う。

 さて、まず編集部員が一様に気にしていたのが、「年齢層」だ。応募ハガキの総数に対する年代順の割合は以下のようになった。

 10歳代=6.5%
 20歳代=0.2%
 30歳代=15.6%
 40歳代=24.7%
 50歳代=33.8%
 60歳代=18.1%
 70歳代=1.1%

 これらの数字はあくまで「フィギュアスケート・マガジンを購入していただいた人」の中で「プレゼントに応募していただいた人」の割合なので、羽生結弦ファンの年齢分布をそのまま表しているとは言い切れない。それでも、ある程度の傾向を示す数字として有効なものと編集部は考えている。

 ハガキには、『フィギュアスケート・マガジン』へのご要望も書いていただいた。編集部員全員がすべてのハガキをじっくり読ませていただいたが、そこから想起される読者の方のタイプは以下のようなものだ。

①真面目な性格の人が多い

 細かい字でびっしりと感想やご意見を書いてくださる方が多かった。日頃、いかに熱心にフィギュアスケートを見ているか、そしてこの雑誌を丹念にお読みいただいているかがうかがえた。その中には「この号のここが間違っていました」というご指摘もあった。「プレゼントの応募にこういうことを書くのはどうだろう」と考えた上で、「いや、マガジンをより良くするためにも、きちんと伝えたほうがいい」と判断していただいたのだろう。

 編集部全員が「次はノーミスします。そうじゃないと…そうじゃないと…」と思っているのだが、このご指摘には頭を下げるしかない。お小遣いをやりくりした上で、書店をいくつも回ったり、通販で届くのを待って本を手に入れた方もいるだろう。その本に誤植があれば、がっかりするのは当然だ。繰り返しになるが、お詫びの言葉もない。

 一方で、そんなご指摘の字面からも、根底にある愛情が感じられた。フィギュアスケートを愛しているからこそ、この本を応援してくださっているからこその言葉だと編集部は受け取っている。それに対する感謝は、実際に本づくりで示すしかない。

4月22日、国別対抗での一場面。女子フリーなどが行われたこの日、羽生はエキシビションの練習に取り組んだ。早い時間から入場した観客の前で披露したアンコールの『レッツ・ゴー・クレイジー』では、場内がひとつになって手拍子! 女子の競技日の練習ですら、そこに羽生が登場すれば彼のステージになってしまう

②あれこれと想像し、愛情を深めている

 会見、バックヤードでの動向をできるだけ忠実に再現する――それが私たちの目指すところだが、もとはといえば、今は異動となった女性スタッフの「女の人は、どんなに些細なことでも好きな人のことを知りたいものですよ」という言葉から、「だったら羽生結弦が会場で話したこと、やっていたことをすべてお伝えしよう」と始まった企画だ。このレポートをマガジンの個性と受け止めていただいている方が多かったのは本当にありがたい。

 テレビに映っていないところで、羽生はこんな表情で、こんな言葉を発していました――。そのレポートを読んで「ああ、この時ゆづはどんな気持ちだったんだろう」と想像をめぐらせていただく。想像する回数が重なっていくほど、愛情はより深く、濃くなっていくのだと思う。

 今でも克明に思い出すのは3月30日、ヘルシンキでのシーンだ。SPでミスが重なり5位となり、羽生は壇上の人ではなく1人の列席者としてスモールメダル授与式に臨んだ。きっと一番悔しく、一番「この状況を認めたくない」のが羽生だったはずだ。それでも彼は、いっとき負の感情を鎮め、メダルを受け取る3人を一番近い場所で祝福した。その姿は、ヘルシンキでの日々でもっとも胸に迫る場面だった。

 会場のハートウォール・アリーナから私が宿泊しているホテルまではトラムで一本だったのだが、その日の夜は「この大会を、どんなふうに読者の方に伝えればいいのだろう」と絶望的な気持ちで車窓を眺めた。正直に告白すれば、その日の演技を見た段階で、2日後のフリーでの姿が思い描けなかった。

 もし、羽生がこのまま表彰台に上ることなく大会が終えたら、読者の方に何をお伝えすればいいのだろう――。よし、あのスモールメダル授与式のことを書こう。ヘルシンキではつらい思いをしたけれども、それでも羽生結弦は強い男だった。つらい現実をしっかりと受け止め、仲間を称えることができる強い心の持ち主だったと、感じたままを読者の方に伝えよう。そんなことを考えながら私はトラムに揺られていた。

 そして2日後、信じられないけれど現実に「それ」は起きた。世界最高を塗り替える223.20点。ジャンプの、振り付けの1つひとつに、羽生の2016-2017シーズン、そしてスケートで培ってきたすべてが凝縮されたような演技だった。

 取材を終えて、ホテルに戻るトラムの中。2日前と同様、やはり私は呆然としていた。「羽生結弦。なんという男だ」「2日前にこの目で見たのは夢だったのかな」「いや、そもそも今日のフリーが夢だったような気もする」。目の前で起こったことがすご過ぎて、頭の中で整理がつかない。その衝撃をお伝えするには、やっぱり大会を丸ごと再現して読者の方に追体験していただくしかないのだ。口の悪い記者からは「羽生ストーカー出現!」「よ、文字テロ!」と冷やかされてしまうのだが、これからもこのスタイルは続けるべきだと思っている。というか、続けていい…ですよね?

 ハガキをお寄せいただいた方の年齢分布はすでにお伝えしたが、あらためて、非常に幅広い層の方が彼を応援していることがわかった。では、なぜ羽生結弦はこれほどまでに愛され、応援されるのか。編集部内で話し合った結果は、また次回以降に書きたいと思う。

5~6月に開催された「ファンタジー・オン・アイス」では、会見や囲み取材はなし。新プログラムへの思いを8月、トロントで聞いてみたい


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