2019年シーズン注目の大会の1つ、グランドスラム大阪(11月22~24日/丸善インテックアリーナ大阪)の開幕が目前に迫ってきた。来年の東京五輪代表争いも、いよいよ佳境に近づきつつあり、その座に最も近いところに位置する選手たちが優勝争いを牽引すると思われるが、伸び盛りの若手の躍動からも目が離せない。ここでは、その中で特に有望な選手をクローズアップ。まずは女子48kg級のホープ、古賀若菜(南筑高校3年)を紹介する。
※写真上=10月にモロッコ・マラケシュで行われた世界ジュニア選手権で優勝した古賀若菜(左から2人目)
写真◎IJF
身長154cm、体重48kgの小柄な体をフルに生かし、どんな相手に対しても臆することなく、闘志をたぎらせて次々とスピーディーに技を繰り出す。その勇ましい柔道スタイルとは裏腹に、素顔の古賀若菜は実に純朴な、一人の女子高生だ。本人曰く「普段は日本一には見えないって、よく言われます」
南筑高校出身で今年の東京世界選手権金メダリストの素根輝(環太平洋大1年)の1学年後輩にあたる古賀。「素根さんのことは県内の小学生の強化選手の頃から知っていて、中学(田主丸中)も一緒。ずっと追いかけてきました」と、女子超級の東京五輪代表を明確に視野に入れる先輩に敬意を抱く。
その2人に共通するキーワードは、ずばり“負けず嫌い”。「その点では、小学生の頃が一番やばかったかも(笑)。例えば試合で、相手の男子が場外に出て先に畳に戻ろうとしたとき、その後ろに向かっていったり。今はだいぶ落ち着いていますけど」という古賀。芯の部分の不変さは自他ともに認めるところではないだろうか。
5人きょうだいの2番目の彼女が柔道を始めたのは4歳のとき。「兄の通っている道場についていっているうちに自分もやりたくなって、親に頼みました。父は選手ではなかったのですが、私が始めたことをきっかけに、黒帯を取ることに。自分が実際に教えられないといけない、と思ったんでしょうね」と振り返る。その後、至極自然な流れで3人の弟たちも柔道を始めていき、久留米の古賀家は正真正銘の柔道一家となっていった。
通い始めた道場――高武館の稽古は内容が濃く、「きつかった」という。それでも幼少の頃から生粋の負けず嫌いだった古賀は、同級生の体の大きな子をライバル視し、道場内でAチーム入りを競っていた。「大きな相手とかなり稽古をしていたので、きつかったんだと思います」というが、そうして着実に積み重ねた鍛錬が、まさに飛ぶ鳥落とす勢いの足取りにつながっていった。
5年時の全国小学生学年別大会40kg級で優勝すると、翌年の同大会では45kg級を制覇。順風満帆のキャリアが本格的にスタートした。「5年生のときはめっちゃ緊張してたんですけど、稽古をしっかりやってきたという自信があったので勝てた。背負い投げが一番得意で、試合ではひたすら技を掛けまくっていた記憶があります」
濃密な稽古で得た自信を揺るがさず、不安な気持ちを一切排除して戦い抜く。そのスタイルもまた、中学・高校の5シーズンを一緒に過ごしてきた素根の雄姿に重なる部分が大きい。
地元の田主丸中に進んでからも順調に成長していった古賀だが、ここでは恩師・黒岩浩隆監督の教育が大きかったという。「小学生までの柔道ではダメ。それではこの先、通じないということで、多くのことを指導していただきました。基本的には、投げ技に加えて足技もしっかり使う。攻撃の幅を広げるということだったのですが、そこから大きく変わっていけました」
ほとんど休みなく、ひたすら稽古に打ち込む日々。「土・日は午前中だけだったので、そのあと遊びに行ったりしていましたが(笑)、柔道漬けに近い生活でした」。その成果が早くも夏の全国中学校大会40kg級優勝という結果に表れた。「3年間で一番うれしかった思い出です。すぐに、全中で3連覇したいという気持ちが生まれました」
2年時には44kg級に出場して栄冠。翌年は全日本カデで頂点に立ち、48kg級に上げた最後の全中では決勝で中馬梨歩(吉野中3年=現・国分中央高3年)に「有効」で惜敗して3連覇と史上初の3階級制覇こそ逃したものの、大きな挫折など無縁の中学3年間を過ごしたといえる。
「44から48に上げたときは、戦い方やパワーが違うのできつかったんですけど、そこから男子とも積極的に稽古するようになった。それが良かったんだと思います。熱くなったら納得するまで稽古していました」
南筑高進学後もパフォーマンスの面では、ここまで大きな壁にぶつかることなくキャリアを築き上げてきた古賀。強いていえば、1年のインターハイで優勝した後、腰の疲労骨折の影響で2ヵ月ほど休んだあたりが雌伏の時だっただろうか。けっこう落ち込んだというが、この期間に包まれた悔しさが、生来の負けず嫌いのハートに火を点けたことは想像に難くない。
そして、リスタートは見事だった。昨年の2年時は全日本カデで決勝進出を果たし、インターハイでは2連覇を達成。ハイライトは11月の講道館杯だった。「前年は初戦負けだったので、3位には絶対に入りたい」と決めて臨んだ、シニアの強者が揃う大舞台。積極果敢な攻撃を軸に勝利を重ね、フレッシュなマッチアップとなった決勝では1学年上の芳田真(比叡山高3年=現・コマツ)を「指導2」まで追い詰めながら絞め技「一本」に沈んだものの、その堂々たる戦いぶりに多く視線が注がれた。「まさか決勝まで行けるとは思っていませんでした。最後は隙を突かれて負けてしまったけど、準優勝はうれしかったし満足でした」
この大会で得た手ごたえと充実感は、今シーズンすぐに大きな結果に結びついた。4月に地元・福岡で行われた全日本選抜体重別選手権。今年の世界選手権代表選考が懸かり、他の大会にはない独特の緊張感にも支配される畳の上で、古賀はさらに進化した姿を、多くの応援の中で披露したのだ。
ベテランの遠藤宏美(ALSOK)にGS「指導3」で粘り勝ちすると、次戦は昨年の学生女王・小倉葵(環太平洋大4年)に巧みな膝車で「技あり」勝ち。そして決勝では経験豊富な実力者、山﨑珠美(自衛隊体育学校)を大内刈り「一本」で倒し、シニアでの全国大会初優勝を飾った。
「優勝できるとは全然思ってなくて…。挑戦する気持ちで、まずは初戦突破が目標でした。でも、組み手と足技が良かったです。奥を持たれるのが嫌いなのですが、それにもしっかり対応できたと思う。そして何より、地元の応援の声が大きな力になりました」と冷静な分析と共に、感謝の気持ちを淀みなく口にした。
選抜翌月のスペインジュニア国際も制し、心地よい追い風を一身に受けている古賀。そんな彼女を南筑高の松尾浩一監督はかねてから「天才肌」と称してきたが、「元々の素質が心技体の成長によって、さらに洗練されてきた」と目を細める。そして、さらに言葉を続けた。「学校の朝練と稽古以外でも、トレーナーについてもらったり、別のところで柔術に取り組んだりジムに行ったり、努力しているんです」
天賦の才能に間断なき努力の才能が加わり、高校3年生の精鋭は、その後もさらに進化のスピードを高めている。GPモントリオール優勝、インターハイ3連覇、世界ジュニア優勝。そして講道館杯で3位に入り、GS大阪への出場を決めた。「東京オリンピックのレースに乗るには負けられない試合なので、絶対優勝できるように頑張ります」。大目標とする東京五輪出場へ向けて、一歩も引かない構えだ。
文◎佐藤正宏
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