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2024-04-02

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第23回「負ける」その2

前日の悔しい敗戦のうっ憤を晴らし、支度部屋で会心の笑顔を見せた安美錦(平成19年夏場所9日目)

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勝つための努力を惜しむ力士はいません。
平成24年名古屋場所14日目、夏場所の覇者、旭天鵬がようやく長い連敗のトンネルをくぐり抜けて初白星を挙げ、「優勝したときと同じぐらい嬉しいよ」と大喜びしていましたが、力士にとって、勝つことは無上の喜びであり、人生を肯定することでもあります。
でも、悲しいかな、勝負ですから、勝つときばかりではありません。
ただ、負けたとき、力士たちが垣間見せる表情は勝ったとき以上に個性豊かで、時には人生の真髄に触れたような思いをさせられることもあります。
そんな負け力士のエピソードを集めました。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

屈辱は飛躍のバネ

負けた悔しさは、当人でなければ分からない。平成19(2007)年夏場所8日目、東前頭4枚目の安美錦(現安治川親方)は東前頭7枚目の高見盛(現東関親方)に寄り切られて負けた。この高見盛には、

「土俵外でも付き合いたくない」

と、こぼされるほど相性が良く、それまで11連勝もしており、これが実に7年ぶりの黒星だった。翌日、安美錦は寝不足の腫れぼったい目をして場所入りし、こう言った。

「昨夜はよく眠れなかったよ。高見盛がニタニタ笑っている顔が眼の前に浮かんでさあ」

相性が良ければ良いで、力士たちの思い入れは強いのだ。そして、このうっ憤を晴らすように、この日の大関琴欧洲(現鳴戸親方)戦に下手投げで快勝。

「これで少しは気持ちが晴れた」

とニッコリした。まさにカモを食い損なった効果だったが、このうっ憤晴らしはこれだけでは収まらなかった。なんと翌10日目も全勝の横綱朝青龍を寄り倒し、通算4個目の金星を挙げたのだ。

「気持ちでは負けていなかった。立ち上がる前、簡単には終わらないぞって思っていたんだ。最後にうまく体を預けられた。うれしいね」

と、2日連続して上位を食った安美錦はすこぶるご機嫌。千秋楽、この連日の活躍が大きくモノを言って、初の殊勲賞を受賞した。このように負けは思いがけない幸運をもたらすこともある。

月刊『相撲』平成24年9月号掲載

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