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2024-03-29

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第17回 「三賞」その2

平成28年春場所千秋楽、勝てば敢闘賞獲得の勢だったが、琴勇輝の引きにバッタリと落ち無念

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令和2年7場所は4カ月ぶりの本番でした。
1場所飛ぶって、大変なことなんですね。なにもかもが異例尽くめ。
力士たちも戸惑うことが多く、あちこちでため息や、ボヤキが渦を巻いていました。
優勝力士や、三賞受賞者の晴れやかな顔を拝めるのも久しぶりです。
まあ、優勝力士は別格ですが、三賞に輝いた力士たちの晴れやかな笑顔にはなつかしさを感じます。
泣き笑い、と言ってもいいでしょう。過去の三賞力士たちもそうでした。
えっ、もう一度、そんな声を聞いてみたいって? 
分かりました。それでは玉手箱のフタを開けてお届けしましょう。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

三賞を逃しても

人間の欲には切りがありません。だから、どこかできれいさっぱり、割り切らないといけない。
 
三賞を受賞するには、千秋楽の午後に開かれる三賞選考委員会で過半数の賛成を得なければいけないが、この選考の段階でさまざまな注文を付けられることも多い。その代表的なものが「この成績では物足りないので、千秋楽に勝ったら受賞を認めましょう」という、いわゆる条件付き受賞だ。
 
前出の琴勇輝(現荒磯親方)が大活躍した平成28(2016)年春場所の東前頭4枚目の勢(現春日山親方)もそうだった。初日からいきなり7連勝し、13日目には二ケタの10勝を挙げたものの、後半、ふがいない相撲が目立ち、もう一つインパクトが足りない。そのため、選考委員会で通算5回目となる敢闘賞候補に挙がったが、

「今日、今場所元気な琴勇輝と当たっている。これに勝ち、11勝に乗せたら受賞を認めよう」
 
ということになった。
 
力士の中には、このプレッシャーのかかる条件付き受賞を嫌い、
 
「条件をつけられるんだったら、三賞はいらない」
 
という者もいるが、このときの勢も相当なプレッシャーを感じたのは確かだった。軍配が返ると、当たって押し込んでイナし、大きく泳がせたまではよかったが、好調な琴勇輝が向き直って逆に押し込み、引き落とすと両手をバッタリ。あと一歩というところで2場所ぶりの三賞を逃してしまった。
 
なんとも悔しい逆転負け。さぞかし恨み言のオンパレード、と思ったら、引き揚げてきた勢は淡々とした口調でこう言った。

「まあ、これも勝負。人間、上を向いたら切りがないですから。三賞は取れませんでしたが、地元の大阪で二ケタ勝った。来場所は初の関脇にも上がれそうだし、最高じゃないですか。これ以上、欲を出したら罰が当たります」
 
場所は年に6回もある。このぐらい割り切ってやらないと身が持たないのかもしれないが、20代でこういう境地にたどりつくのは容易じゃない。力士たちはどうやって心の修行をしているのだろうか。

月刊『相撲』令和2年8月号掲載

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