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2024-02-27

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第22回「苦労」その3

引退後、体重を絞って食事に気を付け、健康な体を維持していた武隈親方時代

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人生は自分の思うようにいかなくて当たり前。
砂を噛むような苦労はつきものです。
だから、この世はおもしろいんじゃないか、という逆説的な見方をする人もいますが、白と黒の二つしかない大相撲界で居並ぶライバルたちを押しのけ、大きな花を咲かすまでの苦労、辛さはとても言葉では言い尽くせません。
その苦労の中身も人によって実にさまざま。
これは力士たちの苦労、辛さにまつわるエピソードです。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

ご飯一口の戒め

引退すれば、太る苦労が逆転する。過食、太り過ぎは健康を損なうもと。いかに現役時代につけた肉を削ぎ落とし、並の体重に戻すか、というのが親方たちの大きなテーマになる。

現役時代、坂道を力強く登る蒸気機関車からとった“デゴイチ”というニックネームを奉られ、強烈なぶちかましでしばしば無敵の横綱、北の湖をも食った元関脇黒姫山は、最高時で147キロあった。引退後、食事制限やトレーニングなどで90キロにまで絞り込んだ。大人1人分の57キロの減量だ。

「ところが、落とし過ぎてフラフラするんですよ。やっぱり血が薄くなったんですかね。そこで、急いで106キロまで戻したんです。するとフラフラ感も消えて、体調がすこぶるいい。ただし、これ以上、太っちゃいけないという戒めの意味を込めて、毎食、ご飯を一口分だけ、茶碗に残すことにしたんです。子どもたちがこんなことをすると、もったいない、ちゃんと食え、と怒るところなんですけど。女房も、その分、最初から減らして茶碗に盛ればいいじゃないの、と言うんですけど、それでは戒めにはならない。これが自分の健康法なんですよ」

と話した。

ちょっと待て、その一口が豚になる。確かに教育的ではないし、食糧危機の国では警察官に追いかけられるかもしれないが、食べることにこだわり抜いた人間ならではの健康法だった。

月刊『相撲』平成24年8月号掲載

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