※写真上=アテネ五輪の金メダルと共に穏やかな笑みを浮かべる塚田真希
写真◎JMPA
2004年アテネ五輪。塚田真希は、柔道日本代表が金メダル8個という“神話”のときに超級で優勝した。女子超級では今でも唯一の金メダリストだ。
アテネでは2つの幸運に恵まれた。1つは、大の苦手だった中国の孫福明が反対ブロックの準決勝でベルトラン(キューバ)に負けたこと。ベルトランには03年世界選手権で一本勝ちしており相性は悪くなかった。
当時、塚田のライバルは孫。後に最大の好敵手となる若手の佟文(中国)も台頭し始めていた。ちなみに、前述の世界選手権で背負い投げ一本負けを喫している。
2つ目の幸運は、決勝のベルトラン戦。先に大外刈りで「技あり」を取られた。寝技に移行したベルトランだったが、焦りがあったのか、塚田の重心を的確に抑えることが出来なかった。横四方固めの形になり、左手で上から塚田の右肩を抑えて極めようとした。
塚田はこれを見逃さなかった。時計回りに回転しながらベルトランの左手を自分の左脇に抱え込み、半回転。上になったときは、後ろ袈裟固めの形になっていた。こうなったら寝技は得意の塚田。右でベルトランの胴を制御しながら一本勝ちした。

※後ろ袈裟固めでベルトランに一本勝ちした塚田真希
写真◎JMPA
塚田は02年の暮れに父・浩さんを47歳の若さで亡くしている。父からのアドバイスは、「弱気は最大の敵」という言葉だった。当時の彼女は、強気で攻めるときと弱気になったときで、柔道がガラリと変わった。
中国選手と戦う際の最大の課題は、最後まで強気で攻められるか…ということ。だが、孫が消えたことで戦うモチベーションが一気に高まった。ベルトランに抑えられたときも諦めなかった塚田。弱気の虫はどこかへ飛んでいってしまった。
もちろんアテネの金は、幸運に味方されただけではない。中国人選手対策として練習していた自分有利の組み手が、前年の世界選手権の頃から出来るようになっていた。右奥襟からの大外・小外刈り、体落とし、浮き落としなども威力を増し、崩せば抑えるという勝利のパターンにつなげた。
北京五輪は、あと一歩で金メダルだった。しかし、愚直に前に出て残り8秒、佟文の一本背負いに一本負け。この決勝は小外刈りで「有効」を先取。「指導1」はもらったものの、残り1分を凌げば五輪連覇だった。スタミナをなくして帯直しに時間をかける佟文に、欧米の観客は大ブーイングだった。
だが、塚田は前に出た。「自分の力を出し切りたかった」と。メダルの色は金ではなかったが、小細工なしの攻撃柔道を五輪の大舞台、多くの観客の前で実践し、共感の拍手を浴びた。
文◎木村秀和
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