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2024-04-26

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第18回「きっかけ」その2

平成28年初場所千秋楽、琴奨菊が初優勝し、祐未夫人と喜ぶ

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人生は、まさに山あり、谷ありであります。
山にあるときは実に気分爽快、この世はオレのためにあるように思えるものですが、谷にあるときはお先真っ暗、気分も落ち込んで耐え難いものです。
そんなとき、何かの拍子で運命が一気に開け、再浮上することもまた、よくあることです。
まして、一瞬の勝負に人生のすべてを賭けている力士たちは。
気になるのはそのきっかけです。
どうやって負の連鎖を断ち切り、運命を切り開いたのでしょうか。
力士たちは次のように証言しています。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

妻の支えで優勝

この力士だって、妻のおかげで成績が劇的に変わったひとりだ。平成28(2016)年初場所、日本出身力士として10年ぶりに優勝を果たした琴奨菊(現秀ノ山親方)だ。これが大関26場所目で、昭和以降の大関初優勝の最スロー記録。31歳11カ月は旭天鵬(現大島親方)、貴闘力に次いで3番目の年長記録だったことによく表れている。つまり、すでにピークを過ぎ、誰も予想しなかった出来事だったのだ。
 
そんな、表現は悪いが窓際族の快挙に、日本中が沸き立ち、賞賛した。千秋楽、優勝パレードを終え、ようやく部屋にたどりついたヒーローを師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)や多くの後援者、ファンらが待ち受け、パーティーが始まった。あいさつに立った琴奨菊は、こう言って顔を真っ赤にした。

「私の一番の支えは妻の祐未です。15日間、一緒に戦ってくれてありがとう。また、こういう思いができるように努力します」
 
琴奨菊は祐未さんと知人の紹介で知り合った。英語やスウェーデン語などが堪能の才女で、平成27年7月に入籍している。このとき、琴奨菊は、

「必ず優勝賜盃の隣に座らせてあげる」
 
と約束したそうだ。
 
それをわずか半年で果たしたことになるが、祐未さんも、もちろん、指をくわえて見てはいなかった。結婚するとすぐフード・マイスターの資格を取得して、琴奨菊の食生活を全面的に見直したのだ。たとえば、油を使わずに揚げ物ができるオーブンレンジを購入し、

「できるだけ胃に負担をかけず、消化のいいものを作るように心がけている」
 
と明かす。
 
ちなみに、琴奨菊が豪栄道(現武隈親方)を突き落として優勝を決めた千秋楽前夜、14日目の夜のメニューはゲンをかついでトンカツだった。また、毎日、力の限りを尽くして帰ってくる琴奨菊の疲れた体をマッサージするのも祐未さんの仕事になっていた。
 
これだけ尽くされては感謝して当然。馬は騎手の手綱さばき一つで走りが違ってくる。令和2年の7月場所も、とても36歳とは思えないような若々しい相撲で11日目に早々と勝ち越し、

「まだまだいける」
 
と元気いっぱいだった。

月刊『相撲』令和2年9月号掲載

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