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2024-04-09

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第23回「負ける」その3

平成20年九州場所後、大関昇進を機に安馬から日馬富士に改名

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勝つための努力を惜しむ力士はいません。
平成24年名古屋場所14日目、夏場所の覇者、旭天鵬がようやく長い連敗のトンネルをくぐり抜けて初白星を挙げ、「優勝したときと同じぐらい嬉しいよ」と大喜びしていましたが、力士にとって、勝つことは無上の喜びであり、人生を肯定することでもあります。
でも、悲しいかな、勝負ですから、勝つときばかりではありません。
ただ、負けたとき、力士たちが垣間見せる表情は勝ったとき以上に個性豊かで、時には人生の真髄に触れたような思いをさせられることもあります。
そんな負け力士のエピソードを集めました。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

ストレスで発熱

日夜、勝つことに身を削っているだけに、負けると体調までおかしくなる。新大関、新横綱のプレッシャーは、大変なもの。平成21(2009)年初場所、待望の大関に昇進し、四股名もそれまでの安馬から改名した日馬富士は、プレッシャーに押し潰されて初日から4連敗した。新大関の4連敗スタートは、史上初のことだった。

そして、5日目の朝、日馬富士は突然、38度の熱を出し、日課の朝稽古を休んで両国国技館内にある相撲診療所に駆け込み、栄養剤の注射を打ってもらった。後日、日馬富士はこのときのことをこう語っている。

「最初はインフルエンザかと思ったけど、原因はストレスだったみたい。4連敗したとき、いろいろ考えて熱が出たんだ。あのときは、どこか遠いところに逃げていきたい気分だったよ」

学校に行きたくない子どもが腹痛を訴えるのと同じような反応だ。この“ストレス症候群”の妙薬はやはり白星。この日、日馬富士は東前頭筆頭の琴奨菊(のち大関、現秀ノ山親方)に、前日までとは別人のようなモロ差し一気の寄りで快勝。

「これをきっかけに乗っていきたい。頑張りますよ」

と、朝の表情とは別人のように指で∨サインを作ってみせた。この白星効果が絶大。その後、盛り返して14日目に8勝目を挙げて勝ち越した。

月刊『相撲』平成24年9月号掲載

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