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2024-07-23

【相撲編集部が選ぶ名古屋場所10日目の一番】カド番の貴景勝に判定無情。差し違えで星を落とし、厳しい6敗目

土俵際、叩きを見せた阿炎の左足は徳俵の上。貴景勝の左手はすでについており、物理的な状況どおり、阿炎が差し違えで勝利をものにした。貴景勝は苦しい6敗目

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阿炎(叩き込み)貴景勝

「ナニッ⁉」とでもいうように、大きく左のマユを吊り上げた。

物言いがつき、九重審判長(元大関千代大海)の説明を聞いていた時の貴景勝の表情だ。
 
阿炎を向正面に押し込んでいき、最後に叩かれて落ちはしたが、土俵の外に運び出した。軍配を受けたのは貴景勝。攻めた流れを買われた形だ。それだけに、「悪くても取り直し」という気持ちもあったのだろう。
 
しかし、判定は無情だった。「同体ではないかと物言いがつき、協議した結果、貴景勝の手が早く、行司軍配差し違えで阿炎の勝ちといたします」。左足一本で立ち、叩きを見せた阿炎だが、その足は徳俵の上で残っていた。もし徳俵でなければ貴景勝の勝ちになっていたと思われる勝負の勢いだったが、まさに阿炎にとっては徳俵、貴景勝にとっては恨みの“損俵”となった。

「(足が残っていた感覚は)一応あったけど、どうかなと思った。(取り直しに向けて気持ちを)一生懸命作っていた。力んで上に立ってしまい、押された。諦めずに抗おうとして、結果的によかった」と阿炎。まともに引いてしまったが、最後は懐の深さが生きた形となった。
 
このところ、勢いのある立ち合いを見せている貴景勝はこの日も、立った直後に阿炎に突き起こすことをあきらめさせるほどの当たりを見せ、相手が引いたところを一散に出て勝負をかけたが、わずかに足が送れなかったか、前にのめる形になってしまった。
 
カド番大関の貴景勝はこれで6敗目。きのう、今場所初めての連勝で、五分の星まであと1つとし、少し光明が差してきたかと思われたが、この1敗でまたかなり厳しくなった。
 
残り5日間で許されるのは1敗のみ。対戦相手はあすは平幕の豪ノ山だが、そのあとは横綱・大関3人と大の里が待つ。これを4勝1敗で乗り切るのは至難の業だ。
 
希望としては、6日目の若元春戦あたりから、序盤戦に比べて立ち合いの圧力は出てきているところで、残り5日間は、その勢いを信じて、一番一番、体をぶつけていくしかないだろう。
 
この日は、今場所10勝を挙げての大関復帰を目指す霧島も、横綱照ノ富士にがっちり極められてねじ伏せられ、5敗目。これで残りは全勝を求められることとなり、厳しくなった。こちらは対戦相手としては、三役戦は琴櫻と阿炎を残すのみだが、場所中盤の相撲内容にもさほどさえが見られず、見通しとしては、もはや“ほぼ絶望的”という判断しかしづらい。
 
思い起こせば、貴景勝は昨年9月場所の覇者、霧島は同じく11月場所の覇者で、ともにその翌場所には「綱取りも」と言われた力士。それがわずか1年もたたないうちに、これほど立場が変わってしまおうとは……。
 
2人とも、苦しむ最大の原因となっているのは首のケガ。やはり、頭から思い切ってカマすことができなくなったり、立ち合いの威力を大きく減じてしまう可能性のある首のケガは、力士生命にかかわるものになることは避け難いのか……。まさに一寸先は闇。そこに、相撲のすごさ、そして同時に怖さ、厳しさをあらためて見る思いがする。

文=藤本泰祐

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