今年2月の後楽園大会で東京女子に初参戦し、現在開催中の「第11回東京プリンセスカップ」でベスト4に残っているザラ・ザッカー。キャリア約1年半で現在22歳の彼女は多くが謎に包まれているため、今回はプロレスとの出会いなどを含めて直接色々と聞いてみた。すると、そこには彼女の深すぎるプロレス愛があった。
――プロレスとの出会いは?
ザラ 12歳の頃に家でテレビをザッピングしてたら、ポーンとピンク色のショートタイツのお兄さんが出てきて…まず何だこれは!?って思ったのが出会いでした。それがドルフ・ジグラーだと後から知って、そこからドラマみたいだし、スポーツみたいだし、暴力的だしで、よく分からないけど目が離せなくなって。そこから大学までずっとWWEを見ていました。それが2021年。
大学の時にWWEのファンイベントみたいなのがあったから行ったら、たまたま柱の陰に隠れるようにレスリングスクールの貼り紙があって。とりあえず写真を撮ったんですね。その後はRAWを見て。リア・リプリーやランディ・オートンとマット・リドルとかのタッグを見たんだけど…とにかくその大会を見ている間、ずーっと泣いてたんです。私には手が届かないもので、私にはこれができないっていう事実が悲しくて。
そこから数カ月、何も行動を起こすことなく思いをそっとしておいたんだけど、数か月後にやっぱりやりたくなって、親に相談をするために勇気を振り絞ったんです。これが大学2年の終わりくらい。親に「レスリングスクールに通いたい」ってお願いをしたら、あんまりいい顔はしなかった。でも「どうしてもやりたいって言うんだったら…」と、大学院を卒業をすることを条件にレスリングスクールに通わせてくれて。自分としてはそれはイヤだったけど、プロレスをやるためだったら何でもする…そうして親の援助をもらってレスリングスクールに大学に行きながら通い始めたのがスタート。
いざ始めてみると、意外とすんなり入れて。っていうのも元々体操とダンスをやってて。ダンスショーとか大会に出たり、ちょこっとテレビCMに出ることもあったから、自らを律すること、真剣に取り組むってことに習慣ができていたので、プロレスにも当てはめたことでつまづくことなくレスリングになじむことができたんですね。そこから1年弱のトレーニング期間を経て、2023年1月にデビューすることができた。以降はサンディエゴを中心に活動していて、1年目はけっこう順調で70試合くらいを闘って。トレーナーにも先輩にも恵まれたのは大きいと思います。
その翌年、2024年2月に東京女子でデビューを果たすことができたんですね。WWEを見て育ってきて…言い方は悪いかもしれないけど、WWEって外には何もありませんって売り方をするんですね。だけど私は実際に入ってみてインディーって世界があることを知って、日本っていう世界もすごいってことを聞いて。どれだけすごいか分からないレベルだったけど、そこで声を掛けてもらったから二つ返事で「いけます」って返しました。とにかく、なんとなくすごいことは知っていたから。で、いざ来てみたら想像以上のもので。海外のレスラーにとって日本に来て試合をするのがこれだけすごいことなのかと。そのチャンスがキャリア1年くらいの私の元にやってきて、これはとんでもないことになったなと。
そうして日本に来て、まだ自分もキャリアが浅いからできることとできないことがたくさんあるのは当然。自分でもそれをよく分かっているから、とにかくできることを精いっぱいやろうと。ゴールとしては次回以降もまた呼んでもらえるということで、そういう形で最初のツアー(2・10後楽園&2・17上越)を頑張ってやって、そしたら幸運なことにレッスルマニアウィークの東京女子のショー(4・6フィラデルフィア)に呼んでもらえて、もちろんそこはすごく自分にとって大きなステージ。たくさんの人に見てもらえる機会だし、何より自分にとって初めてのレッスルマニアウィークだから。そういう機会も東京女子が与えてくれたので、すごく感謝しています。
日本に行けた、レッスルマニアウィークに参加できた。じゃあ次の目標はなんだろうなって思ってた時に、すぐ東京女子から「5月は日本に来れますか?」って連絡をもらって。ただ大学4年の卒業がかかってる期末試験のタイミング(アメリカでは5~6月が年度末)だったので…さっきも言ったように親から学業は厳しく言われていたので、そこはどうしても行けないと。なので断ったんですよ。これで怒らせちゃって、もう呼ばれなくなっちゃうかなって心配もあったけど、とりあえずは無事にサンディエゴ州立大学の心理学の学部を卒業できて。そしたらまた東京女子が連絡をくれて。今度は単発ではなくて、少し長めのツアーってオファーをいただいたので、もらえる機会を全力でつかみにいきたいので…それと5月の時の後悔もあるので、ぜひぜひお願いしますってことで今回のツアーに参加させていただきました。
最初呼ばれた時は、トーナメント(東京プリンセスカップ)にエントリーされるって話は聞いてなくて。後々になってそれを聞いた時にすごくビックリしたけど、同時にすごく嬉しくて。東京女子には素晴らしい選手がいっぱいいて、トーナメントだったら色んな選手と闘えるから。やれるだけやってみようと思って…そしたら現時点で、正直自分でもビックリしてるんです。ここまでやれるとは、って。トーナメントで渡辺未詩と瑞希に勝ったんですよ。でもここまできたんだったら、もう最後までいってやろうって気持ちで次の準決勝に臨もうと思っています。
――プロレスを始める時点で親の反対があったというが現在はどうですか? まだ反対している? もしくは応援?
ザラ お父さんは比較的前から「有名になっちゃえ」みたいに応援してくれてるんですけど、やっぱりお母さんが心配していて。痛いし、ケガするし、特にアメリカインディーだと移動も多いし、お金にもならないし。なんでこんなことやってんの?みたいなかんじだったのが、完全に180度変わってものすごく応援してくれるし、試合どうだった?みたいなメッセージも頻繁にやり取りしてるし。けっこう入れ込んで応援してくれています。
で、幸いなことに大学は卒業して、いまは時間を取ってプロレスをやれる状況なんですけど…お母さんが大学院の話をいつ言ってくるのかビクビクしていて(笑)。自分からその話を出すことはないから、もし言って来たら…そこでちょっと考えようかなって。いまは熱中して応援してくれてるから、その話が出てきてなくて助かってます(笑)。
――もうお母さんには忘れていてほしいと(笑)。
ザラ もちろん! それを願うばかりですよ。
――では、そもそも東京女子という団体についてはどんなイメージを持っていましたか?
ザラ 最初に連絡を受けた時、すでに団体のことは知っていたし、DDTと協業体制にあることも知っていました。あとは一部の選手…山下実優、中島翔子あたりは知っていたけど、そこから先のことはよくわかっていなかったので、とりあえず連絡をもらってすぐに調べました。するとこんなに色んな選手がいて、団体の規模も大きくて…自分の思っていたよりもこれは大事(おおごと)だぞと(笑)。そこからさらに調査を続けて、日本に来るための準備を重ねてきました。
――実際に試合をしてみて日本のファンのリアクションはどう感じましたか?
ザラ 自分はサイズも大きくないし、キャリアも浅いから、みんなからそんなにできると思っていない目で見られているのもあって、試合内容とか結果でビックリさせるのは慣れてはいます。それでもやっぱり渡辺未詩に勝った時は「オー!」じゃなくて「オオオオオーーー!!」みたいにどよめきが続くかんじがあって、すごく嬉しかったですね。瑞希戦でも驚かれたんだけど、未詩に1回勝ってるっていうのがあったからちょっと驚きの質が違ったのかなと。まったくのサプライズというよりは、ここまでやるのかと。2人とも倒しちゃうのかって意味での。
ファンの反応そのものについては、日本のファンの反応がすごく好きで。アメリカだとお祭りなんですよ。プロレス見ながらお酒飲んで騒いでってかんじで。それに対して、日本だとファンの人たちが競技性だったり勝ち負けに感情移入していて、すごく真剣に見てくれるし、応援してくれるし、勝ったら喜んでくれるし、負けたら悔しがってくれるし。ホントにプロレスをしっかり見ているという反応はアメリカと違うところなので、日本のそういった人たちの見方とかリアクションが自分はすごい好きです。
――では、試合の中での自分の技や動きで特に自信のあるものはなんですか?
ザラ 自分のスタイルっていうのは、色んな教わったことをミックスしていて。パワーを売りにしてはいるものの体操のバックグラウンドがあるから、何かの技を避ける時にハンドスプリングをしてみたり、けっこう躍動的な動きも多くて。そういうのが試合中に急におとずれるから、何か特定な技を待ってもらうよりかは目を離さないで見ておかないと急に色んなものが飛び出してくるから、見逃さないようにしっかりと見ていてほしいですね。
――SNSを見て知ったのですが、最近は東京女子の選手と遊びにいくことがあったようですね。
ザラ アメリカの団体にいくと、ロッカールームは女子高みたいにグループに分かれている雰囲気があるんですけど、東京女子はそういうのがまったくなくて。みんなすごく話しかけてくれるし、何かする時に「一緒にやろうよ」って声もかけてくれるし。それでディズニーランドにも行ったんだけど、たぶん日本に来て過ごした日の中でディズニーランドの日が一番楽しかったです(笑)。自分にとって家を離れて、異国の地でアウェイなはずなのにそう感じさせない。第二の故郷と思えるような状態をみんなが作り上げてくれています。素晴らしい人ばかりで、ホントに感謝しかないです。
――他に日本にいる間で観光した場所や遊びに行きたい場所はありますか?
ザラ いまのところプロレスばっかりで、ディズニーランド以外の場所はほとんど遊びに行けてないので、ひとまずはディズニーシーの方にも行ってみたいし。あと、どうやら東京にはプロレスショップなるものがたくさんあるみたいで、そういう店もめぐってみたいですね。いわゆる“観光”も残された時間でしていきたいです。
あ、そういえば東京ドームの近くに猫カフェとか犬カフェとか、とにかく色んなふれあいの場があって。カピバラからアルマジロから鳥から…そういうのが全部いて、ふれあえるカフェには行って、それはすっごい楽しかったです!
――お気に入りの日本食など、食の方はいかがですか?
ザラ 元々けっこうアレルギーの多い体質なんだけども、偶然日本の食材には使われていないもの伍夫いので特に問題なく過ごせていますね。ホントにどこに行ってもおいしいものがあって、クレジットカードも使えて。一番好きなのは一蘭のラーメンです。でもおいしすぎて食べ過ぎちゃうから、週に1杯までっていう風に自分をおさえてます。大抵、試合が終わった後にご褒美で食べることが多いですね。
――替え玉はけっこういくんですか?
ザラ けっこう替え玉しなくてもお腹いっぱいになるので大丈夫なんだけど、でもチャーシュー追加と味玉は必ずつけてますね(笑)。
――ちなみに趣味はなんですか?
ザラ 昔はプロレスが趣味でした。ダンスは2~15歳くらいで、高校に入ってからはチアリーディングだったり陸上だった李生徒会だったりをやっててプロレスが趣味の枠だったんですけど、いざ始めてみたら趣味枠が何もなくなって。もう起きてる時間はすべてプロレスに捧げていますね。
――そこまでプロレス漬けだったとは…。トーナメントの話に戻るのですが、準決勝の相手は愛野ユキです。アメリカで1回タッグを組んでいますが対戦するのは初めてです。
ザラ そうですね、タッグを組んだのでちょっと知っているんですけども、信じられないようなことをやってのけるパワーを持っていて。実際にフィラデルフィアでの試合の中でもビックリさせられることがいくつもありました。自分もある種似たようなタイプなのでその部分でも負けられないし、とにかくホントにこのトーナメントには懸けているので、強敵なのは分かっているけどここで止められるわけにはいかないですね。
――そこで勝ち進んだら日本プロレスの聖地・後楽園ホールのメインイベント(=トーナメント決勝戦)に上がることになります。
ザラ 数か月前に初めて後楽園で試合をした時、めちゃくちゃ緊張したんですよ、震えるくらいに。それくらい自分にとって特別な場所で。そこから1年も立たないうちに、あんなに震えていた会場でメインイベント…それはとんでもないことで、自分にとってはとてつもなく意味のあることになるし。あとは自分のためだけじゃなくて、自分のような周りの人たち…特にサイズがあるわけでもない、まだ何も達成していないキャリアの浅い選手でもこういうチャンスをつかんで、後楽園ホールのメインイベントでっていうチャンスをつかめるんだよっていうのを伝えたいです。
――同じような境遇の選手の希望になりたいと。
ザラ その通りです。とにかく夢をあきらめるな、夢を追いかけろ、そのための努力を惜しむなってことを伝えたいんです。さっきも言ったようにプロレス会場に行って、自分では手に入らないものだと思ってずっと泣いてたような自分が、世界的に見てもプロレスの聖地ともいえる場所でメインイベントを張れる…そのあと一歩のところまできているから。そういうことが起こるんだよ、だからあきらめないでっていうのを伝えたいです。
――優勝者はプリプリ王座に挑戦するのが通例ですが、同王座または他のタイトルも含めてのベルトへの興味はいかがですか?
ザラ すごく興味があるし、(現王者の)渡辺未詩にはすでに1回勝っているので全然権利があるかなと。週刊プロレスに写真まで載ってるので(笑)。もしかしたらその事実だけを持って、将来的にチャレンジの資格があるって言い張ることもできるのかもしれないけど…どうせ挑戦するんだったら、トーナメントで勝って堂々と挑戦をしたいですね。
――では最後に、プロレスラーとしての最終目標だったり、目指すものを教えていただければと思います。
ザラ まだ自分のキャリア的にそこまで遠くまでは考えられていないんだけど、長期的な目標としては誰かに専属契約をしたいと思わせたい。どこの団体であろうとも、専属契約で定期的に参戦していて、プロレスだけで生活ができるようになりたいです。そのレベルに達するように自分の知名度や能力を上げていきたいんです。それが達成できたら、その先にレッスルマニアか何か分からないけど、何かしらの目標はまた出てくるとは思うけど…いまの当面の目標はそれですね。
――とにかくプロレスが好きだと。
ザラ その通り。大きな夢みたいなものを語るためには、まずスタートラインに立たないといけない。自分にとってのスタートラインがどこかの専属契約で、そこで初めて将来的に大きなことをしたいっていう権利を得られるのかなと思ってます。あとは…そのタイミングになってお母さんが大学院のことを言ってこないことだけを願ってます(笑)。