宇良(押し出し)豊昇龍2日前に続き、また大関を正面から押し出した。宇良が豊昇龍を破り、9日目の琴櫻戦に続き、大関戦に連勝。7勝目を挙げ、勝ち越しまであと1とした。
この日は、大関にほぼ何もさせなかった。立ち合いは、まず頭を下げて一度当たり、ただ二の矢は慌てて出さずに少し相手の突きを受ける。この間、腰を低くし、頭も上げないようにしながら、上体で角度を作って廻しを相手から遠ざけ、捕まらないようにしているのもまたうまいところだ。
この宇良の体勢に、豊昇龍は思わず一度引いてしまうことになる。ただ宇良とすれば、足がそろわないように構えを作っているので、これは“待ってました”というところ。サッと潜って左ハズ。あとは下から持ち上げ、大関を東土俵に押し出した。
宇良はこれで、9日目の琴櫻戦に続く大関撃破。しかも変則技で勝ったのではなく、いずれも正面から押し出しているところがすごい。琴櫻戦も、相手と体は密着させながら、頭と上体は相手から最も廻しが遠くなる角度を作っての押しを見せており、さまざまな体格の相手に対して、この絶妙の角度を会得しているというところが、今場所の力強い相撲につながっていると言えそうだ。
宇良はこれで勝ち越しまであと1勝。新小結だった1月場所から、上位で健闘を続けながらも負け越しが続き、じりじりと番付を下げてきたが、どうやら今場所が反転攻勢の場所になりそうだ。
宇良としては、ここを返り三役への起点としたいところだが、大の里の大関昇進が濃厚で一つ席が空き、ほかの力士にとってはチャンスに見える来場所の三役争いは、状況を見ると、思いのほかし烈だ。
まず、関脇の霧島が今場所すでに勝ち越し、東関脇が濃厚(大の里は大関に昇進すると仮定する)。三役は残り3席あり、一見余裕がありそうに見えるのだが、ここに入ろうという候補者がわんさかいるのだ。
まず最初のコンテンダーは、これまで関脇が詰まっていたため、お預けを食わされてきた大栄翔、平戸海の両小結。大栄翔は今年5月場所には西前頭筆頭で11勝しながら小結までしか上がれず、先場所8勝したが地位はそのままだった。きのうまでは5勝5敗の五分だったが、この日は大関琴櫻に徹底的に離れて取って押し出し、白星先行。「立ち合いはよくなかったけど、攻めに転換できてよかった。下から突き押しで攻めたいと思っていた。大関に勝って白星先行したのはいいこと」と、関脇復帰へ意欲十分だ。先場所、小結で10勝しながら地位据え置きだった平戸海は、この日は敗れて6勝5敗。後半に入って、やや失速気味だけに、もうひと踏ん張りして勝ち越し、意地でも関脇を手にしたいところだろう。
平幕からの候補者としては、まず西2枚目の王鵬が、この日、隆の勝との長い一番を執念でモノにし、勝ち越しまであと1。琴櫻、豊昇龍を倒すなど、今場所の成長曲線はナンバーワンで、新三役への期待が膨らむ。
その後には実績組が続く。今場所の平幕では“実力三役級”の評価ナンバーワンの西3枚目若元春も、この日で勝ち越しまであと1。肩と腕をうまく使いながら湘南乃海に正面から組ませないうまさはさすがだった。さらに元大関の東4枚目正代が今場所は攻める姿勢を取り戻し、勝ち越しまであと1だ。
東5枚目で7勝の宇良は、現状ではそこに続く立場。東7枚目ですでに勝ち越しを決めている若隆景とともに、残り4日間で大きな上積みができればチャンスが生まれてくる。ここに、東2枚目で現在5勝6敗の熱海富士が、もし勝ち越せれば割り込んでくる、というのが、現在の来場所三役争いの状況だ。
優勝、さらには大関も手にしそうな大の里旋風に、ともすればほかの力士は隠れがちとなっている今場所だが、「さらにその次」の大関コンテンダーへ、この熾烈な三役争いがどうなっていくかも、終盤の見どころになるだろう。
文=藤本泰祐