大の里(寄り倒し)若元春きょうも、強かった。
大の里が、難敵の若元春も圧倒して寄り倒し。初日からの連勝を9に伸ばした。
この日の相手の若元春とは、過去2勝1敗。先場所は押し倒しで敗れているうえ、過去3度の対戦ではいずれも、一度は若元春得意の左差しを許しているというところにも、懸念材料はあった。勝負の分岐点は、左が入った時点で、若元春の体勢が押されて崩れているかどうか。過去3度の対戦では、そこが白星と黒星を分けていた。
大の里もその辺を意識しているのか、あるいは立ち合いから差し手争いを展開しては分が悪いと考えているのか、この対戦では立ち合いは右胸から当たるのではなく、常に突き放しを選択している。この日も、立ち合いはモロ手突きから入り、先手を取った。
そして、まず突き放した後、勝負の焦点は当然、大の里の右、若元春の左の差し手争いに移るかと思われたのだが、この日の焦点は反対側にあった。大の里の左の攻めだ。右で差し手争いを繰り広げながら、この日の大の里は、左を若元春の脇に当てがい、グイッとハズで押し上げた。この威力は強烈で、若元春の体はいっぺんに浮いてしまい、アッという間に土俵際だ。若元春は最後に少し体が離れたところで何とか右に回り、土俵際、投げでかわそうとしたがならず。そのまま押し倒して大の里が勝利を握った。
大の里は、「廻しにこだわらなかった?」には「そうですね」、「イメージどおりの攻めだったか」には「落ち着いていけました」と答えた程度で、相撲の内容については深くは語らず。今場所は、取組後もだいたい似たような問答が続いているが、とにかく一場所終わるまでは、終わったことを振り返る場面ではない、という意識なのだろう。
そういうわけで、相撲内容の分析は外から見てのこちらの解釈にならざるを得ないが、とにかく今場所の大の里は、左からの攻めが目立つ、ということは間違いがない。先場所までは、相手を起こすにも基本的には右の差し手から掬って起こしている印象が強かったが、今場所は、右を差した場合でも、差し手はむしろ突きつけるように使って、左からのおっつけで相手を攻め、浮かせる相撲が多い。初日の熱海富士戦こそ、一生懸命おっつけにいった割には効いていない印象もあったが、5日目の隆の勝戦から、6日目の正代戦、7日目の平戸海戦と、場所が深まるにつれ、左からの攻めが勝利の決め手になる形が増えてきた。この日はおっつけでなくハズ押しだったが、これまでの右に加えて、左からの攻めが磨かれてきたことで、大の里が「鬼に金棒」の状態に近づいているのは確かなようだ。
あすは、いよいよ1敗で追う霧島との対決(ちょっと顔を合わせるのが早すぎる気もするが……)。過去は大の里の2戦2勝。ただ最初の対戦では、霧島もいったんは左前ミツを取って頭をつける絶好の体勢になっている。これまでは、大の里が右差し、霧島が左前ミツ狙いで立ち、大の里が霧島の上体を起こせているかどうかが勝敗の分岐点となっている感じだが、今場所の元気さなら霧島が立ち合いにサッと前ミツに手がかかる立ち合いができる可能性もある。果たして大の里はまた右差しにくるか、あるいはモロ手突きで先に起こしにくるか。このあたりが注目だ。
大の里がここで勝ってしまえば、早くも優勝はかなりの確率で大の里の手中に落ちる状況になり、霧島が勝てば、優勝争いはいっぺんに互角の争いに戻る。今後の場所の様相はこの勝負の勝敗次第で180度変わると言っていいだろう。果たしてどちらの目が出るか。
さあ、大一番だ。
文=藤本泰祐