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2024-09-27

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第22回「鮮やか、一本?」その2

平成29年初場所8日目、豪風(右)が鮮やかな一本背負いで魁聖を投げた

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新型コロナに振りまわされ続けた2020年。
みなさんにとって、2020年はどんな年でしたか。
なんか、締まらない年だったな、という人のために、ピシッと決まる話をしましょうか。
昔は、相撲の技は四十八手でしたが、最近は八十二手もあります。
これ以外に非技、いわゆる勇み足、つき手、腰砕けなどの勝負結果が五手です。
これらが、それもあまり見たことがないような技が、もののみごとに決まったときの力士たちの晴れやかな顔といったらありません。
そんな鮮やかな技や珍手にまつわる3つの話です。

最後は一本背負いで

同じ格闘技ということもあって、ほかの競技、たとえば柔道などと共通する名称の技もある。一本背負いがそうだ。
 
平成29(2017)年初場所8日目、東前頭5枚目の豪風(現押尾川親方)は東前頭9枚目の魁聖(現友綱親方)が右を差して寄ってきたところ、その右腕をつかんで背中に背負い、鮮やかに一本背負いを決めた。幕内の一本背負いは、平成26年初場所12日目、里山(現千賀ノ浦親方)が栃乃若に決めて以来、3年ぶり。豪風は幕内、十両で1回ずつ決めており、これが3回目だった。
 
豪風は中学まで柔道をやっていたそうで、

「捨て身なんでね。狙ってできるもんじゃない。あれをやらなかったら、負けていたよ」
 
と話し、こう言って胸を張った。

「柔道でも一本でしょう」
 
豪風は2児のパパ。長男の海知(かいち、当時9歳)君、長女の稔音(ねね、当時7歳)ちゃんはそろって柔道を習っていた。

「(2人にも)いい刺激になったんじゃないですか」
 
と帰り際に父親の顔をかいま見せていたが、帰宅すると予想どおり、

「パパ、すごいね」
 
と2人が飛びついてきたそうで、その夜ばかりは豪風家の大ヒーローだったという。
 
この一本背負いストーリーには続編がある。それから1年後の平成30年初場所、豪風は引退して年寄「押尾川」を襲名。さらにその1年後の令和2年2月1日、両国国技館で引退相撲が行われた。豪風が最後の一番で指名した相手は長男の海知君で、なんと一本背負いでもののみごとに転がされた。
 
これには豪風もさすがに苦笑いし、

「うれしい黒星です。やはり土俵は真剣にやっている人が上がるもの。ホラ、ケガしちゃいました」
 
と擦りむいた左ヒジをみせたが、その顔は間違いなく清々しかった。これで悔いなく現役生活に終止符を打てましたね。

月刊『相撲』令和3年1月号掲載

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