close

2024-12-27

【サッカー】サッカーに必要なメンタルとは?「しなやかな心を育てる」第29回:SNSの使い方

SNSには危険性もあるが、高校時代からなじませ何かあったら注意する、やりながら学んでいくものだという(イラスト/丸口洋平)

全ての画像を見る
明るく楽しく練習に取り組む京都精華学園高校女子サッカー部。全国3位という躍進の原動力となったのは、「サッカーを好きになり、うまくなりたいという気持ちを引き出す」指導である。2021年度まで同校を率い、現在はINAC神戸レオネッサでアカデミー統括部長を務める越智健一郎が語る「サッカーに必要なメンタル」。今回は、スポーツ界に限らず、関心が高まっているSNSの使い方について述べる。
※本記事はサッカー指導者向け専門誌『サッカークリニック』2025年1月号から転載

取材・構成/鈴木智之

|SNSは、やりながら学んでいくもの

今回のテーマは「SNSの使い方」です。私がSNSをどのように使いながら、選手たちのモチベーションを高めたり、チーム力の向上につなげたりしたかをお話ししていきます。

私が京都精華学園高校にいた頃は、練習の雰囲気がわかる動画および写真を選手たちがフェイスブックやインスタグラムにアップしていました。SNSの良いところは、自分たちの活動を発信できること。そして、今の若い子たちにとっては、フェイスブックやXよりも、インスタグラムやTikTokが主流です。

四国のある強豪女子高校の指導者は、いつも一眼レフのカメラを持ち歩き、選手たちの写真を撮っています。それをインスタグラムにアップするのですが、今どきの感じで、センスの良さを感じます。一見、コワモテな外見とのギャップに驚きました。

その先生が言うには、インスタグラムを見た子が体験練習に来てくれるそうです。また、自分たちのチームカラーがインスタグラムを通じて伝わるとも話していました。

京都精華学園時代の私は、選手のSNSについて、禁止も管理もしていませんでした。SNSは、卒業して大人になれば、絶対についてまわります。高校時代からなじませた上で、何かあった場合には注意するなど、やりながら学んでいくものだと考えました。ただし、SNSには危険性があるので、投稿する側のバランス感覚やリテラシーが問われます。例えば、誕生日の選手に、お祝いとして、みんなが水をかけた動画を上げたとします。すると、「公共の場で大きな声を出している」「いじめにつながるのではないか?」と捉えられることがあります。

チーム内のノリも、SNSでは誤解されやすいと言えます。公開しても良いものといけないものの区別について、扱う人のセンスがポイントになります。

私は、外部への発信には責任を伴うので、楽しさを見せつつも、一線を越えないように気をつけていました。ときには批判的なコメントが匿名でくるので、注意が必要です。

京都精華学園において、SNSは、かなりオープンでした。学校から何かを言われることはなく、私は、トレーニング風景や試合の合間の様子などを自身の個人アカウントにも上げていました。当時は一風変わった練習が多かったのですが、それを見て、こういうサッカーをやりたいと入学してくれる子がいたのです。

「明るく、楽しい」というチームのモットーは、全国大会で結果を出しただけでは伝わりません。その魅力を発信できたという意味で、SNSの影響力は非常に大きかったと感じます。

|編集は、選手が担当。グループで回した

当時の私は、世の中に発信するパブリックイメージを逆手にとっていました。

「京都精華は、パスやドリブルを織りまぜるテクニカルなチーム」というイメージを植えつけていたのですが、実際には、堅い守備をベースにした上で、ゴール前でテクニカルな技術を発揮して、ゴールを奪う、カウンター主体のチームでした。一種のイメージ戦略だったと言えます。

当時は、動画を編集し、それを共有する取り組みを行なっていました。紅白戦の映像から、2、3分のダイジェスト動画を作成。良いシーンと悪いシーンを抜き出し、全員で共有するのです。その編集は、選手が担当しました。私がやったことは、1度もありません。1人に負担がかからないように、グループで回していました。

映像制作のグループは、異なる学年の選手で編成しました。普段はあまり接しない選手同士がコミュニケーションをとるようにしたのです。これは、重要な仕掛けの1つでした。先輩後輩の壁をなくし、チーム内の風通しを良くするために、あえてそうしました。

前述したインスタグラムの投稿は、サッカーのプレーそのものよりも、チームの雰囲気を外部に発信することが、主たる目的でした。その際も、普段の仲良しの集まりとは違うグループ編成で、動画を作成したのです。

試合の映像は、校舎の上のほうから撮影しました。重要なシーンを抜き出し、得点場面、失点場面、チームコンセプトに合う良いプレーなどを選手たちが自主的にピックアップしました。

こちらからは特に指示しませんでしたが、ディフェンスのシーンを取り上げるグループが多かったです。これは、私が何を重視するか、チームとして何を大切にするかが、選手たちに伝わっていた証拠です。インターセプトの場面、ヘディングで競り勝った場面、ディフェンスラインがきちんと下がった場面などをピックアップしてくれたので、互いの確認作業をする際に役立ちました。

映像の良さは、こちらの指導がどれだけ浸透しているかを理解できること、そして、選手たちの頭の中がわかることです。あまり理解していないなと感じることもありましたが、そういった点を確認する意味でも有効でしょう。理解不足を把握できるのは、指導者側のメリットです。

中には、BGMをつけたり、テロップを入れたりと、凝った編集をしてくる子がいます。ただし、2、3分程度にとどめるようにしました。ポイントを絞った内容にしたわけです。あまり長いと、つくる側にも見る側にも、負担になります。

編集グループは、選手のポジションのことは、あまり考慮しませんでした。気をつけたのは、Aチームだけ、同じ学年だけなどにならないようにしたこと。紅白戦のメンバーは毎回変わりますが、そのチームでグループを組むこともありました。

グループの編成を変えると、さまざまな視点や発見が生まれます。同じメンバーだと、編集が好きな子や得意な子など、特定の子だけが作業することになりかねないので、メンバー構成を変えるようにしました。全員がまんべんなく関わることによって、チーム全体としての理解力が向上しました。

|試合を見直す過程において、学びがある

試合の撮影と編集については、練習試合でも行ないました。編集するには、必ず1度は試合を見直す必要があるので、その過程において、学びがあります。

おそらく、どのチームにしても、YouTubeにアップロードした上で、リンクを送るなどの方法によって、試合映像を共有していると思いますが、それを自主的に見返す選手は10パーセント程度ではないでしょうか。

サッカーのことがよほど好きでない限りは、振り返って見ようとは思わないものです。しかし、自分が編集当番になったら、必ず見ることになります。「全試合を見ろ」とは言いませんが、習慣づけすることが大切です。

自分が編集して、アップロードするとなると、みんなに見られるプレッシャーがあります。下手な内容は出せないという意識が生まれるので、しっかりと注視するようになります。

また、2、3分程度の短い動画を見ると、そのチームメイトがどんなシーンを重視しているかがわかります。ですから、良い勉強になります。

つくる側にしても、みんなに見てもらうにはどうすれば良いか、ポイントをわかりやすく伝えるためにはどうすれば良いかなどをきちんと考えます。それも、学びになります。

試合中について言うと、自分の近くで起こっているプレーには注目しますが、逆サイドのプレーには、なかなか目がいきません。だからこそ、映像を見て編集するという、当事者意識を持たせる工夫が必要なのです。

ちなみに、全日本高校女子サッカー選手権大会などの大舞台の前には、学年ごとの選手紹介をインスタグラムに投稿していました。

SNSには良い面もこわい面もありますが、多くの選手が、できるだけ楽しく、問題なく、取り組めるようにすることが大切だと思います。そうしたやり方によって、SNSが、チームにとってプラスになれば最高。そういう考え方で、SNSを活用していました。

今は、プロクラブのアカデミーでSNSを担当していますが、情報の漏洩がないように、また、クラブやトップチームのイメージに沿って進めるように心がけています。みなさんも、SNSの有効利用にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

【今月のポイント】

1. 映像制作のグループは、異なる学年の選手で編成
2. 映像を見て編集するという、当事者意識を持たせる
3. SNSに、楽しく、問題なく、取り組めるようにする


(Photo:INAC神戸レオネッサ)
越智健一郎(おち・けんいちろう)
INAC神戸レオネッサアカデミー統括部長
1974年生まれ、愛知県出身。愛知県立瀬戸高校から日本体育大学へ進学。愛知県の高校で2年間講師を務めたあと、京都精華女子高校(現在の京都精華学園高校)へ赴任した。2006年にサッカー部を創部し、監督に就任。サッカーの楽しさと勝利を両立させ、12年度の全日本高校女子サッカー選手権大会で3位、14年度の全国高校総体で準優勝に導いた。個々の技術の高さと判断力をベースにした魅力的なサッカーは、女子高校サッカー界で異彩を放った。21年度も全日本高校女子選手権に出場。22年からINAC神戸レオネッサでアカデミー統括部長を務める


「 【特集】今こそ知りたい!「ポケット」の攻略法」を掲載した「サッカークリニック2025年1月号」はこちらで購入

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事