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2025-01-14

【相撲編集部が選ぶ初場所3日目の一番】琴櫻、綱が遠のく2敗目。翔猿の「魔の距離感」にハマる

土俵際で翔猿に身をかわされ、土俵下へダイブする琴櫻。3日目にしてよもやの2敗、綱取りは大きく遠のくこととなった

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翔猿(引き落とし)琴櫻

土俵際でかわされて、ただ一人転がり落ちた土俵下。尻を地につけたまま、しばらくぼう然と土俵を見詰めた。
 
今場所、綱取りの期待がかかっていた琴櫻が、翔猿に引き落とされ連敗。3日目で早くも2敗となり、綱取りから大きく後退した。
 
立ち合いは、翔猿が先場所に続き、あまり踏み込まずに見ていく立ち合い。位置としては琴櫻が前に出たが、翔猿は下から潜って右を差すことに成功した。琴櫻はこれを嫌って左から小手投げ。次いで右差しを狙ったが、翔猿に手首をつかまれて果たせず、再度左から小手投げで振り回して右差しを狙う。このあたりまでは、琴櫻もしっかりした腰の構えで取れていた。
 
ところが、右差しを狙って掬い上げた手が、翔猿に振りほどかれた直後、2、3発、突きを食ったところで、両者の間に腕が伸ばせるだけの距離ができた。こうなれば、相撲は翔猿ペースだ。この距離から腕を伸ばしながら相手との間合いを測り、飛び込んだり、イナしたり、引いたりと自在な動きを見せるのが翔猿の相撲。いわばこの距離は、「翔猿の距離」であり、逆に琴櫻にとっては「魔の距離」と言える。
 
主導権を握られた琴櫻は、相手を十分捕まえきれないまま、腰の構えもやや中途半端に前に攻めることになった。これを感じ取った翔猿は、琴櫻が腰を寄せるより速いスピードで引き足を見せ、体を右にかわしながら、右は廻しに手がかかったかかかっていないかの引き落としで、琴櫻を土俵の外へつんのめらせた。

「(内容は)まあ理想ではないけれど、攻められたんで」と翔猿。最後に入って攻めるか、引いて決めるかはその時の感触次第でもあるので、最後は引き落としであっても、琴櫻を破るにはこれが一番可能性のある取り口だったとは言えるだろう。
 
琴櫻は、これで3日目にしてよもやの黒星先行となる2敗目。初日を見た段階では「これは終盤まで綱取りの楽しみを保ったまま行けるのでは」との期待を抱かせたが、琴櫻にとって、右の相四つの隆の勝とは違い、文字通り相手との距離感が難しい阿炎や翔猿は、本格的にエンジンがかかる前の2日目、3日目に当たるには難しすぎる相手であったということか。琴櫻は翔猿にはこのところ6連勝してはいたが、その中には昨年9月場所、まさにこの日の相撲と似た感じで、土俵際で翔猿に右に体をかわされて前に這い、翔猿が勝ったようにも見えた一番もあった。やはり上位陣にとって翔猿が常に油断できない相手であることは確か。本当に、今の上位陣は一筋縄ではいかない相手ばかりで、その中での綱取り、われわれ周囲は簡単に盛り上がるが、やはり相当な難事と言える。
 
取組後の琴櫻は(最近、敗れたときはこれが定番になってきたが)、「切り替えます」と一言だけ。これで豊昇龍をはじめ8人いる3連勝の力士とは2差がつき、綱が遠のいたことは確かだが、ただ、まだ残りは12日もあり、気持ちを折るには早すぎる。何とか先場所得た覇者の自信を思い出し、気持ちを立て直して、あす以降、一番一番、目の前の星を積み重ね、「万一、豊昇龍変調の時には……」とチャンスをうかがう体勢を、諦めることなく築いていってほしいところだ。

文=藤本泰祐

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