
リディアードは、最後の1~2週間、不安になりがちな選手に対して「今まで十分に『ホームワーク(宿題)』をやってきたんだ、安心してレースを楽しんで来い!」と言っていました。「ハードトレーニングをやり続けながら、レースで良い成績を出すことはできない」というのも彼の持論でした。
レースで好成績を収めるには、「フレッシュ」で「シャープ」でなければなりません。リディアード法の利点のひとつに、すべてが理論立って、正しい順番に沿ってプログラムされている、ということがあります。
逆に、気まぐれな練習を投げつけて闇雲にくっつけたプログラムでは、いつ何をやるべきか、ハッキリした全体図が見えません。そしてついつい、最後の最後でハードトレーニングをやってしまいがちです。それは、脈略のないプロセスによる「不安」からくるものです。
リディアード・ファウンデーションにおいて、私のパートナーでもあるロレイン・モラー(ニュージーランド)は、大阪国際女子マラソンで3度優勝、1992年のバルセロナ五輪で銅メダルに輝きました。

1992年バルセロナ五輪の女子マラソン銅メダリスト、ロレイン・モラー。大阪国際女子マラソン(写真)で3度優勝、北海道マラソンで2度優勝と日本にも馴染みが深い
その彼女が初めてサブ2・5で走ったのは81年、米国ミネソタ州のグランマズ・マラソンでした。ロレインにとって3度目のマラソン。そのとき、彼女のコーチは、レースの3日前に1マイル(1609m)2本を課しました。日本でいうところの「ポイント練習」ですね。
ロレインは、1本目を4分50秒(キロ3分2秒ペース)で軽々と走り、「あたかもジョギングしているように楽だった」と、のちに述懐しています。そしてそこで練習をやめてしまった彼女に対して、びっくりしたコーチが慌てて駆け寄り、故障や痛みがないかを確認。そこで、ロレインはこう言ったそうです。
「もうこれで十分よ。この『良い気分』は本番のレースにとっておくわ」
今までやるべきことは全部やってきたという自信と、自分がやってきた練習は正しいという「トレーニング・プログラム」に対する確信。この両方が伴っていたからこそ、彼女はそのような言動ができたのです。
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