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2025-03-09

【相撲編集部が選ぶ春場所初日の一番】新横綱豊昇龍は完敗の黒星スタート! 今年もまた「荒れる春」の予感!?

阿炎にアッという間に突き出され、新横綱豊昇龍の初日は黒星スタート。果たしてあす以降、早い時点で立て直していけるか

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阿炎(突き出し)豊昇龍

アッという間に、土俵の外にはじき出された。
 
新横綱豊昇龍の第一歩は、一方的に突き出されての黒星で記されることになった。
 
この日の相手は西小結の阿炎。番付最上位者の初日の相手は西小結というのが最近恒例になっているが、豊昇龍にとっては運が悪いというかなんというか、新横綱の初日に当たるのに、これほど嫌な力士はいないだろう、という相手だった。
 
過去の対戦成績は、通算すれば豊昇龍の11勝6敗だが、直近の対戦では昨年9月場所は寄り倒し、11月場所は叩き込みで連敗。しかも豊昇龍が優勝して綱取りを決めた先場所は、終盤の割崩しによって、対戦が組まれていない。つまり、豊昇龍にとって、横綱になるべしと力を認められたここ2場所に、本場所で倒した手応えのない相手、ということになる。そして相撲のタイプとしても、立ち合いモロ手突きで一気に出てくることもあれば、横への変化もあり、振り幅が大きい力士で、対戦相手の立ち合いに迷いを生じさせるタイプだ。
 
この日、豊昇龍が選択した立ち合いは、張り差し。左で張っての右差し狙いだった。おそらく、できるだけ早い時点で相手を捕まえてしまおう、ということだったのだろうが、結果から言うと、これは完全に失敗だった。
 
この日の阿炎は、立ち合いから迷いなくモロ手で突き上げてきた。豊昇龍の選んだ張り差しは、相手を捕まえられる可能性は高い戦法だが、相手に与える圧力はあまりない。立ち合い、阿炎のモロ手突きの圧力に押され、左の張りはほぼ効果なく、差しにいった右も、むしろ下から突き上げる阿炎の左に威力を与えただけで、完全に自らの体を浮かせる要因となってしまった。

「しっかり自分の距離を取って、相撲が取れた」という阿炎が、そのまま難なく突き出して勝負あり。

「ちょっと失敗した。叩きがあるので、叩きのことばかり考えていた。一瞬で来た」と豊昇龍は悔やんだが、後の祭り。ここ2場所の好成績の要因となっていた立ち合いの攻めを手放し、張り差しに走ったのはやはり安直すぎたというべきか。
 
横綱昇進が決まってからは、「みんなの見本(手本)にならなければいけない」という発言が折に触れて出るようになるなど、“地位が人を作る”の好例になるかも、という雰囲気を漂わせていた感もあった豊昇龍だが、その豊昇龍をしても、思わず安直な立ち合いを選択してしまう、というのが、やはり新横綱の初日のプレッシャーであり、阿炎という対戦相手の魔力であったということなのだろう。
 
とはいえ、まあこの日の敗戦は、立ち合いの失敗と割り切ってしまえば割り切れる敗戦。新横綱自身も、「あしたからは自分らしい相撲を取りたい。集中して頑張ります」と語っているとおり、まだ気持ちの上で追い込まれた感はなく、軌道修正は十分可能だろう。
 
ただもし黒星が続くようだと、だんだん「もう負けられない」のプレッシャーが大きくのしかかってくることになるので、少しでも早く白星を手にして落ち着きたいところ。二日目の相手の若隆景は、通算対戦成績では5対6とリードされているので楽な相手ではないが、稽古でよく胸を合わせてきた相手なので、迷いのない立ち合いができる可能性は高いとみるが、さてどうなるか。
 
この日は豊昇龍のほか、カド番大関の琴櫻が若元春に左四つを許して寄り切られ土。大関への足場固めを狙う大栄翔と新関脇の王鵬も黒星を喫し、関脇以上で白星発進は大関大の里ただ一人と、場所は早くも「荒れる春」の様相を呈してきた。令和に入ってからは毎年違う覇者が出ている春場所。今年はどんな結末が待っているのか。まあ、もし豊昇龍が優勝することになっても、「新たな春の覇者」には該当するわけだが……。

文=藤本泰祐

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