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2025-03-19

【サッカー】筑波大の将来がある選手たちを預かる大学生ヘッドコーチ。俺たちのトレーニングプラン大学編:筑波大学 後編

60~80の達成度を目指して、トレーニングの進行や選手のモチベーションにも気を配る戸田氏。(Photo:土屋雅史)

2024年度の天皇杯全日本サッカー選手権大会で、Jクラブを撃破し、多くの人々に注目された学生チームが筑波大学だ。そして、天皇杯のほか、24年度の全試合の指揮を執ったのが、大学4年生の戸田伊吹ヘッドコーチ。2年生のときに、選手から指導者に転身したばかりの戸田だが、采配初年度から好成績を収めた。名門大学サッカー部という組織の中で、どのように取り組んだのか? プランニングの考えを聞く。
後編では実際の計画の立て方、スケジュール内容とそれらのポイントを解説。

取材・構成/土屋雅史

(引用:『サッカークリニック 2025年4月号』-【特集】新時代のトレーニング計画法 PART2:俺たちのトレーニングプラン-より)

|立ち上げから4日間でゲームのサイクルをつくる


(Photo:Getty Images)

─週間計画については、どんなことを大事にしながら組み立てるのでしょうか?


戸田 その週にゲームがあるかないかが、大事な要素になります。ゲームがあるなら、どのタイミングなのかというところから逆算しながら、トレーニングを何日間でつくるかを最初に考えます。

筑波は、立ち上げから4日間でゲームというサイクルをつくっています。2日目にフットボールコンディショニングゲームというトレーニングを行なって、その中で、それぞれに必要な負荷をしっかりとかけます。週によっては、ゲームの翌日にそのままトレーニングを行なって、調整、ゲームという流れもありますし、ゲームが日曜の場合は、トレーニングを2日やったあとに、セルフトレーニング(自主練)の日を1日設けて、またトレーニングを2日やる、そして、ゲームというサイクルを回すこともあります(表参照)。



─24年度のシーズンで言うと、当初のトレーニング計画に対して、シーズン中にどれくらいの修正を施しましたか?

戸田 前の週のゲームに出場した選手の疲労度を見ながら、「今週は、強度をちょっと落とさないとダメだね」というように、変えるべきところは、大胆に変えていました。フィジカルの部分は、追い込む週、回復させる週、キープする週みたいな感じでうまく使い分けていたのですが、かなり流動的にやりました。

─ある日のトレーニング内容は、どれくらい前に決めるものでしょうか?

戸田 その日によりますが、自分はオフの日のうちに、その週の立ち上げから3日目あたりまでの流れを決めます。そこから、1日のトレーニングをやったあとに、次の日のトレーニング内容を修正するという形です。

─3日間のトレーニング内容を決める際の基準はありますか?

戸田 基本的には、フットボールピリオダイゼーションに則ります。その日にかけられる負荷、時間、ボリュームをベースにしながら、その週に何をやりたいのか、その日に何をやりたいのかによって、トレーニング内容を変えます。加減速を多く出したいのであれば、時間を増やしたり、人数を少なくしたりしながら、グリッドを広くして、移動距離を増やすといったやり方を採っています。やりたいこととその日にかけたい負荷に応じて、その都度、調整します。

大学生の場合は、人数と時間も、気にする要素になります。チーム練習は夕方からが多いのですが、授業で参加できない選手もいます。人数がそのときそのときで変動するのが学生サッカーだと思います。

─人数と時間は流動的なんですね。

戸田 はい。それぞれの選手の履修表を把握した上で、できるだけみんなが参加できるような時刻に、トレーニングを設定しています。

トレーニング時間に関しては、週の立ち上げの日は、長くても75分が、ベースになります。週によっては、2日目にハードにやることがあって、そのときは90分くらい。でも、極力短くしたい、1時間ちょっとで収めたいと考えています。

─それは、どういった理由からでしょうか?

戸田 人間の集中力の問題です。それと、冬の期間は体がどうしても冷えるので、できるだけ暖かくて、みんなの集中力が研ぎすまされているうちに、いろいろなことをテンポよく進めたいと考えています。



|60から80程度が成長する上でちょうど良い

─チームでよく行なうのは、どんなトレーニングですか?

戸田 ボールポゼッションを多くやっていると思います。ボールをもらう前の準備を意識しながら、誰とつながる必要があるのか、ボールを持ったら、まずはどこを見るのかといった、頭の中を合わせるようなトレーニングが多いです。その中でどういった守備をやらなければいけないのか、つまり、攻撃のトレーニングをやりながら、守備のことも意識するようなメニューが、24年度は多かったと思います。

選手にいろいろな刺激を与えたいですし、自分自身もいろいろなトライをしたいので、同じようなものを落とし込みたい練習でも、内容、ルール、人数、オーガナイズを変えて、模索しながらやっていました。自分は、そういうことが好き。指導者をやっていて、1番楽しい部分です。実行して、反省して、次に活かしていくのは面白いですし、その中で、選手が何かをつかんだ瞬間や良くなっていると感じる瞬間があるとうれしいです。

─1日のトレーニングが完璧に遂行されたときの達成度を100とすると、どれくらいの達成度なら、良しとしますか?

戸田 60くらいじゃないでしょうか。逆に言うと、100だったらあやしいと言いますか、自分の中でバイアスがかかっている可能性が高いなと思います。自分が思い描いた通りになったら、それは、トレーニングが簡単すぎたのかもしれませんし、選手の発想を奪っていた可能性もあります。ですから、60から80程度を行ったり来たりするくらいが、選手にとっても自分にとっても、成長する上でちょうど良いのかなと思います。

これはダメだと思ったら、はい、次に行こうと、トレーニングを変える場合があります。これは、大事な要素。年間を通して、常に一緒に戦うチームなので、トレーニングの雰囲気やグラウンドの空気については、かなり気にします。何か違うなと感じたら、次のトレーニングにあえて移るのも必要なことだと思います。

─トレーニング計画やチームのオーガナイズをこれだけ任されると、責任を感じるのではないでしょうか?

戸田 責任重大です。将来がある選手たちを預かっているので、常に真摯に向き合わなければいけないなと思います。でも、こんなにも大きな責任を背負って指導できる経験なんて、あまりないこと。ですから、責任を感じながらも、楽しみながらやりたいという風に思います。

─24年度のシーズンを経て、指導するのが、さらに楽しくなりましたか?

戸田 そうですね。楽しくなりましたし、大変さも知ることができた1年でした。



戸田伊吹(筑波大学ヘッドコーチ)
PROFILE
とだ・いぶき/ 2002年5月3日生まれ、茨城県出身。柏レイソルU-15、同U-18を経て、21年に筑波大学に入学した。1年時はプレーヤーだったが、2年時にスタッフに転身し、下部カテゴリーを指導。4年生になった24年度は、トップチームのヘッドコーチとして、試合の指揮を任され、関東大学サッカー1部リーグで2位という好成績を収めた。また、総理大臣杯全日本大学サッカートーナメントにおいて、チームを3位へと導き、天皇杯全日本サッカー選手権大会では、FC町田ゼルビアをPK戦の末に打ち破るという金星獲得に貢献した。25年度もヘッドコーチを務める(Photo:土屋雅史)

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