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2025-04-08

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第30回「決め手」その3

平成元年初場所9日目、安芸乃島(当時安芸ノ島)は千代の富士を上手投げで破る金星。この場所は惜しくも負け越し、三賞獲得はならなかった

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春は物事の始まり、スタートの季節でもあります。
あなたは春に何を始めますか?
振り返ってみれば、何かを始め、成就するにはきっかけがあるものです。
「決め手」と言ってもいいでしょう。
力士たちも力士人生をまっとうする中で、さまざまな決め手に遭遇しています。
例えば、入門にこぎつけた決め手、賜盃を抱いた決め手、昇進の決め手など。
そんな決め手にまつわるドラマを集めました。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

苦々しい思い

横綱が誕生しにくくなっているだけに、安芸乃島(現高田川親方)が記録した金星獲得16個を更新する力士はこの先、なかなか現れないのではないだろうか。

しかし、安芸乃島はこの大記録について聞かれるたびに、

「歯がゆくてたまらない記録ですから」

と話し、多くを語ろうとしない。安芸乃島が平成15(2003)年夏場所限りで引退するまで追い求めてやまなかったのは大関だった。そんな安芸乃島にとって、平幕が横綱に勝った証しである金星は、番付が安定していなかった忌々しい記録でしかなかったのだ。

それにしても、どうして安芸乃島は平幕で横綱を16回も破る実力がありながら大関になれなかったのだろうか。その決め手を、安芸乃島は苦々しい顔でこう述懐している。

「性格的な問題もあるんでしょうが、背が175センチしかないのに、廻しを取れるか、取れないかが勝負という大きな相撲を取っていましたからね。最近、みんな大きくなっているでしょう。いい感じで立っても、廻しに指が届かない。つまり、身の丈に合った緻密な相撲が取り切れなかったんです。せめてあと5センチ、腕が長かったら大関になっていたと思うんですが――」

この弱点ばかりは、克服できなかった。

月刊『相撲』平成25年4月号掲載

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