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2025-05-15

【相撲編集部が選ぶ夏場所5日目の一番】鮮やか内無双!「ウクライナの業師」安青錦は自己最高位でも壁知らず

翠富士を内無双で鮮やかに転がす安青錦。この業師ぶりに加えてパワーもあり、どこまで番付を駆け上がっていくかは楽しみだ

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安青錦(内無双)翠富士

“ウクライナの業師”が“肩透かし王子”を鮮やかに転がした。
 
安青錦が幕内では令和5年1月場所5日目以来、2年4カ月ぶりに出た珍しい決まり手の内無双で4勝目を挙げた(ちなみにそのとき内無双を決めたのは、この日敗れた翠富士。食らったのは妙義龍だった)。まさかの決まり手に、敗れた翠富士も「内無双で負けるのは高校生のとき以来ですかね」とビックリだった。
 
この日の安青錦は、潜ってこようとする翠富士に対し、頭は上げないながらも右手を出して、動きへの対応も考えながら距離を取る立ち合い。そのあとはよく見て中に入れないように突いて出た。それでも差し手争いでは翠富士が勝ちモロ差し。安青錦は左上手に手がかかった。
 
しかしここで強引に攻めないあたりが安青錦のうまさだ。「モロ差しに入られて逃げるパターンだった。肩透かしもうまいので」と、モロ差しを許しながらも相手のアゴの下に頭をつけて翠富士が動きづらい形を作る。
 
これを嫌がった翠富士がいったん振りほどいて廻しを切りに来るが、安青錦はこの命綱を離さず。左が下手になって、組み手としては左四つで安青錦が頭をつける形になった。
 
そこから安青錦が右で少しおっつけた直後だった。安青錦は左下手からひねると同時に右手で相手の左足を内側から払う内無双。鮮やかに翠富士を転がした。
 
取組後は「決まり手とかは、あんまり気にしたことはない。勝つことだけ」と、ここは外国出身力士らしいコメントの安青錦だったが、実は内無双を決めるのは2回目。前回決めたのは約半年前(十両にいた昨年11月場所13日目、対大奄美)なのだから、かなりの“内無双の使い手”ということが言えるだろう。

「稽古場ではケガをしやすいので。危ないからやらない。本場所では勝たなきゃいけないから」(安青錦)とのことで、特に練習を積んだ技ではないようだが、それでもいざというときにサッとこれを出せるのは、彼の技の引き出しの中に内無双がしっかり入っているということだろう。
 
なぜこの珍しい技が安青錦の引き出しに入っているのかと言えば、その秘密は、彼が子供の頃から相撲と並行して取り組んできたレスリングにあるようだ。安青錦によると、「レスリングにも足を取るためのいろんな動き、パターンがある」とのことで、内無双もどうやらその応用のよう。
 
さらに、流ちょうな日本語で、「(比較すると)、レスリングのほうが(技の動きの種類の)幅は狭いと思う。廻しもないし。ただ、相撲は膝をついたり、手をついたりしたらそこで負けなので、余裕がないと(こういう技は)できない」と、相撲とレスリングを比較しながらの解説までしてくれた。いやはや、ホントに頭のいい力士だ。
 
ここまで通算75勝を挙げている安青錦だが、この内無双のほかにも、切り返しで4勝、裾払いで1勝、上手出し投げで2勝、下手出し投げで3勝、下手捻りで2勝、上手捻りで1勝を挙げており、決まり手はバラエティーに富む。まさに“ウクライナの業師”と言えるだろう。
 
一昨年の11月場所で番付についてから、すべて6勝以上で、所要6場所で関取へ。そこからあとも先場所まで3場所連続二ケタ勝利で番付を上げてきた。もちろん負け越したことはない。自己最高位の前頭9枚目の今場所もここまで4勝1敗と、壁はまだまだ見えない。
 
囲み取材の最後には、記者から「今度はぜひ外無双を」を振られ、「どっちも大丈夫」と笑わせた。どこまでも楽しみな21歳だ。

文=藤本泰祐

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