立ち合いに当たり勝ち、最後は叩き込み。豊昇龍から金星を奪って3連勝とした王鵬。あすは3連勝同士で綱取りの大の里と激突する
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王鵬(叩き込み)豊昇龍
大鵬の孫の覚醒が、いよいよ本格的になってきた。
初日に大関琴櫻を破り、2日目は元大関の霧島を圧倒して白星を重ねてきた王鵬が、この日は横綱豊昇龍も撃破して金星。上位陣ばかりを倒しての見事な3連勝だ。
この豊昇龍と王鵬の対戦は、初場所、優勝決定巴戦の二番目で、豊昇龍が勝って優勝を決め、横綱昇進につなげたことが記憶に新しいが、その一番を含めると直近は豊昇龍が3連勝していた。
とはいえ王鵬も、めきめき力をつけてきたここ数場所より前の段階の令和6年に連勝したことがあり、豊昇龍にとっては嫌なイメージのある相手ではあったろう。さらに二人は同学年でアマチュア時代からのライバルでもあるので、豊昇龍側から見て「ただの関脇以下の相手の一人」ではないはずだ。
きのうまではベストな精神状態で来ているように見えた豊昇龍だが、この日は少し入れ込む要素があったのかもしれない。最後の仕切りで手をつく前、いつもに比べるとやたらバンバン廻しを叩いていたような気もする(まあ、結果を知っているのでそのことを思い出すだけなのかもしれないが)。
そして勝負は、意外に早く決着がついた。両者とも頭を下げ、相手を突き上げるような狙いで立ったが、当たり勝ったのは「自分の中では最高の形で、重さ、角度もよかったと思います」という王鵬だった。両方の腕がよく伸び、豊昇龍の上体を起こす。豊昇龍はのけぞって耐えたが、後ろ側の左足が少し流れる形に。王鵬は逃さず反応して左に回ると相手の首根っこを押さえて叩き込んだ。
「体が動いてくれたんで。立ち合いから一歩、二歩の動きがよかった」と王鵬。一方の豊昇龍は、この日の取組後はノーコメント。まだ1敗だが、きのうまでとはちょっと気持ちの面で変化が出てくる可能性も漂わせ、さてあすからどうなるか、というところか。
3連勝の王鵬は、「(滑り出しは)これ以上ないです。このままの調子を続けていけるといいなと思います」と手ごたえありの表情。この日は決まり手こそ叩き込みだったが、横綱相手にしっかり当たり勝ち、そこからの流れで挙げた白星であることは、本当に力がついてきた証明でもあり、頼もしい限りだ。
さらに言えば、この王鵬は、さすが大横綱大鵬の孫だけあって、金星一つ取ったからと浮かれることはなく、上の地位を目指してしっかりと長い目で自分を見ているようなところもある。新関脇の先場所は6勝9敗と負け越し、1場所で三役の座を明け渡したが、この日のNHKインタビューでは「先場所も星の上ではそうでしたけど、自分でははね返されたと思ってないんで。しっかり自分の実力を出していければ」と語るなど、その大物感は魅力だ。この場所を、これからどんどん上の地位へ昇っていく起点とできるか。
あすはこの王鵬と、綱取り大関の大の里が全勝同士で激突。4日目にして、大注目の顔合わせが実現することになった。
過去の対戦成績は、大の里の3連勝のあと、直近は王鵬が連勝。王鵬は当初は大の里が右差しにくるところをおっつけにいく立ち合いで敗れていたが、立ち合い突き上げていく作戦に変えてから連勝している。大の里としては何らか対策を迫られる形になっているが、果たして立ち合いをモロ手突きに変えていくのかどうか。一方で、この日の阿炎戦では立ち合いで右差しを成功させたことで相手のノド輪攻めに耐えることに成功、これには手応えを得ているはずで、そのあたり、どう考えてくるかがカギだ。
横綱にも当たり勝った王鵬の立ち合いに、大の里は果たしてどう対応していくか。さあ、場所前半ではこれ以上ない大一番だ。
文=藤本泰祐