最後は上手捻りで大の里の全勝を阻止し、先輩横綱の意地を見せた豊昇龍。来場所からの横綱同士としての二人の競い合いが楽しみだ
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豊昇龍(上手捻り)大の里
「残り2日間が大事」と、夢の横綱を確定させてもあくまで気を引き締めていた大の里でさえも、やはり最後の最後まで、まったくスキを見せずに走り切るということは難しかったようだ。
全勝を狙っていた大の里が、豊昇龍の先輩横綱の意地に屈し、今場所初めての黒星を喫した。
この日、千秋楽結びの一番は、来場所から番付の上でも、そして土俵の上でも、東西の頂点の位置に並び立つことになる豊昇龍と大の里の対戦。おそらく今後しばらくは、これが「相撲界の千秋楽の最後を飾る風景」となる顔合わせだ。
立ち合い、今場所はあまり突っ張りを採用していない豊昇龍は、頭を下げながらの右差し左上手狙い、対する大の里はモロ手突きで当たった。
先手を取って押し込んだのは大の里。しかししっかり当たっている豊昇龍は、土俵際に詰められるまでに十分な時間的余裕を稼ぎ出していた。右を浅く差して、左上手に手を掛ける。
ある程度立ち合いの相手の勢いを削いでしまえば、豊昇龍の次の動きはこの対戦ではいつも同じで、右へ回っての投げだ。
これを防ぐには、大の里は左でおっつけ、右の差し手からの攻めとバランスを取って、常に豊昇龍を正面に置く必要があった。
大の里も最初は左からおっつけていたが、豊昇龍は差し手から掬って右に回りながら、だんだんと重心を大の里の正面からずらしていく。この辺が豊昇龍のうまいところで、いつの間にか大の里の攻めは右の差し手のほうに偏った形になってしまった。
二人の重心にズレが生じたところで、最後は左からの上手捻り。大の里は右ヒザから土俵に崩れ落ちた。
この千秋楽結びの一番に「絶対勝つ」と闘志を燃やしていた豊昇龍。来場所から並び立ってくるライバルに一矢を報い、見事に意地を見せつけた。これで対大の里は、不戦勝を除くと5勝1敗だ。
今場所の途中では、あまりの大の里の安定感に、「下手をすると、この先来るのは“豊里時代”ではなく“大の里時代”では?」と思ってしまったが、この日、豊昇龍が意地を見せたことで、まずは「二強」として両雄が競い合っていく形でのスタートが約束されたように思う。
今場所の結果が物語っているが、この両雄、今のところは、「下位力士との対戦での安定度では大の里が上回り、直接対決での強さでは豊昇龍が上回る」という形にあるようだ。まさにそれぞれが、そこに課題を残していると言え、先にそれを克服した者が、次の時代の覇者になっていくと言えよう。
最後はちょっと「画竜点睛を欠く」という形になってしまった大の里だが、ここまで14日間の内容は本当に強かった。相撲がどんどん進化しつつあるので、先の楽しみは大きい。豊昇龍攻略と、そして全勝優勝は、今後の課題として、また進化の材料としていけばいい。
「水曜日にいい知らせが聞けるよう、今は待ちたいと思います。来場所も大事な場所になってくると思うんで、しっかりと準備をして、またいい場所を過ごせるよう、頑張りたいなと思います」と大の里。
来場所は新横綱の登場とともに東西に横綱が並び、競う時代のスタート。大相撲のあるべき形が戻ってくる。大関はいったん一人になるが、きのうも書いたとおり、大栄翔、霧島、若隆景の3人による大関争いは激しいものになるだろう。IGアリーナ初年度の名古屋は見どころ満載。楽しみな場所になりそうだ。
文=藤本泰祐