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2025-06-06

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第29回「白鵬」その2

平成28年夏場所14日目、37回目の優勝を決めた白鵬が支度部屋で大勢の記者に囲まれる

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始まりがあれば、必ず終わりが来る。
これがものの道理です。
令和3年名古屋場所、この終わりがあるのかどうか、注目を集めたのが横綱白鵬でした。
白鵬ファンか、アンチ白鵬かは置いといて、多くの相撲ファンが固唾を飲んでその一挙手一投足を見守り、中にはハラハラ、ドキドキ、手に汗握って熱い視線を送ったことでしょう。
白鵬と言えば、このコーナーでもおなじみです。
欠かせない人材といっていいでしょう。
なにしろ15年も横綱にいたんですから。
その間、いかに強いプライドと自信を持ち、強気にふるまったか。
今回はそんなエピソードに絞って紹介しましょう。主役は白鵬です。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

優勝後の水は格別

力士と水は切ってもきれない。土俵に上がったとき、力水といって必ず水をつけるし、支度部屋でも、あの大きな体の半分ぐらいは水でできているんじゃないか、と思うぐらいよく水を口に含んだり、飲んだりする。取組を終え、支度部屋に戻ってきても、真っ先に手にするのは水だ。
 
平成28(2016)年夏場所14日目。白鵬が日馬富士を寄り切って勝って14連勝とし、結びで1差で追いかけていた稀勢の里(現二所ノ関親方)が鶴竜(現音羽山親方)に敗れたため、千秋楽を待たずに早々と白鵬の2場所連続、37回目の優勝が決まった。まさに敵なし、ぶっちぎりの優勝だった。
 
悠々と引き揚げてきた白鵬はまず風呂に飛び込んでたっぷりと長風呂を楽しみ、真っ赤な顔で出てくると、付け人が差し出したペットボトルの水を一気に飲み干し、こう叫んだ。

「水がうまいっ。ジュースみたいに甘いよ」
 
そりゃ、そうでしょう。優勝を決め、長風呂から上がった直後の水だもの。それにしても、どうしてこんなに強いのか。翌千秋楽も鶴竜をきわどく打っ棄って全勝という華を添えた白鵬は、こう言ってにこやかに笑った。

「自分ではよく分からないんだけど、土俵に上がるともう1人、違う白鵬がいるような気がする。2人、白鵬がいるんじゃないかと。土俵を降りると、こんなにやさしいんだけどねえ」
 
白鵬以外の力士は言えないセリフだ。

月刊『相撲』令和3年8月号掲載

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