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2020-09-01

青森山田中学校の監督に聞くサッカーの育成Part.2「育成年代で良い選手が育つ環境とは?」

KEYWORD 02「育つ環境」

講演トーク会に登壇した、左から葛谷智貞監督(府中新町FC)、上田大貴監督(青森山田中学校)、川端暁彦氏(サッカージャーナリスト)

司会 選手が育つためのより良い環境について説明してください。

上田 選手が成長するためには、ハード面は関係ありません。素晴らしい人工芝でナイター設備がある、シャワーが完備されている、フットサルコートが何面もある、だから選手がうまくなるというわけではありません。大事なのはハード面以外の環境になります。

 環境の中で第一に必要になるのは競争です。少しでも気を抜けば試合に出られない、カテゴリーが下がる、毎日120パーセントで頑張らないといけない、毎日ヘトヘトになるまでボールを追いかけなければならないという環境です。そして、(練習後は)しっかり休んで、回復して翌日の戦いに臨みます。トレーニングでピッチに一歩入ったら、目の色が変わって戦う集団になること。それが大切な要素の一つです。

 次に、周りのノイズが少なく、サッカーにストレスなくトライできることが重要です。いろいろなことに挑戦でき、失敗を繰り返しながら、チャレンジを認めてあげるチーム方針、つまり思い切りやれるという点が大事な要素になります。 

司会 競争があり、周囲のノイズがなく、思い切りやれる環境ということですね。上田監督は普段から「正義が勝つ環境」の話をしています。それはどういうことでしょうか?

上田 学校で「クラス崩壊」という言葉がはやった時期がありますが、そのクラスは「正義が勝つ環境」ではないことが容易に想像できます。クラスを崩壊させようとする悪の力が勝り、クラスの崩壊を防ごうとする正義の力が非常に弱い状態。つまり、正しいことを正しいと言えない環境です。

 正義が勝つという環境を実際につくり出すのはなかなか困難なものです。正しいことを正しいと言えたり、一生懸命に頑張ったりする当たり前が、実は意外と難しい場合があります。正しいことを言うと周りから浮いてしまったり、正しいことを言った子を周りが「いい子ぶって」とバカにしたり、頑張って努力する子を揶揄したりと、そういう状況は、世の中、大人の世界でも多々あります。

 しかし、青森山田では「良いことと悪いことを選手同士で指摘し合いなさい」と言っています。良いことは良い、ダメなことはダメというわけです。

 キャプテンが私の前に1人の選手を連れてきたことがあります。その選手に「監督に言え」と促すと、「ルールを破りました。すみませんでした」と、自分の「ルール破り」を泣きながら告白しました。そういうことがあっても、キャプテンがチーム内で嫌われているか、浮いているかというと、そうではありません。逆に、悪いことをしたり、正しくないことをしたりした選手のほうが間違いなく浮いてきます。そういう環境が、子供たちが正しく育つ環境だと思います。

 そういう環境をつくるのは本当に困難ですが、少しでもそこに近付けられるようにと、中高ともに取り組んでいます。私たち指導者も、頑張り切れていない選手や浮ついている選手がいれば声をかけますが、ウチでは指導者が伝える前に選手同士で指摘するのです。どちらが正しいのかという、選手同士による言い合いもありますが、そういう環境が、選手が育つためには必要だと思います。


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