過剰な練習の悪影響、加熱した勝利至上主義の弊害……。今、野球界ではこれまでの常識の見直しを迫られている。これからの選手指導、育成には何が必要なのだろうか。そのヒントとなる、新たな価値観を提供するチームを取り上げる。
奈良県天理市を中心に活動している、中学硬式野球チームのフィールド・オブ・ドリームズのコンセプトは「タイカン野球」。野球のパフォーマンスに重要な「体幹」を強化すること、そして野球の面白さ、楽しさを「体感」できる環境を目指している。
写真上=フィールド・オブ・ドリームズの選手たち
写真◎フィールド・オブ・ドリームズ提供
フィールド・オブ・ドリームズでは、技術練習においてあまり教え込むことはしない。正解を押しつけるのではなく、さまざまな情報の中から自分自身に適した方法を見つけることが選手を成長させるという考えだ。
その分、体の使い方を学ぶトレーニングに重きが置かれている。特に正しい走り方を身に付けることが重要だと、チームの創設者でもある堀泰人監督は語る。
「運動能力を技術につなげようと思ったときに、一番必要なのは走りを見直すこと。走りが良くなるとスローイングや守備も向上します。これは足の接地が良くなるため。地面反力のパワーをうまく使うことはバッティングもピッチングも同様ですから、走りを強化すると自然と野球技術もうまくなるのです」
夏季期間は瞬発系、秋から冬にかけては6~7割のスピードで心地よいリズムでランニングをして正しい走り方を身に付けるなど、季節に合わせたメニューを行う。
また、呼吸法を学んだり坂道ダッシュでバランス能力を高めるなど、ただ数をこなすのではなく、さまざまなラントレーニングに取り組んでいる。
シーズンを通し、内容を変えながら行われるラントレーニング。3年間行うことで50メートルを6秒台で走れるようになる選手も多い
体をうまく使うためには、体幹トレーニングを行い、筋力を強化するだけでは十分ではない。フィールド・オブ・ドリームズの特徴は、自分自身の体を軸を感じる「感覚」を高めるための取り組みも行っていることだ。
例えば、1~2センチ程度の板に片足を置き、左右のバランスが悪い状態で真っすぐに立ってみる。すると、自分の体の中心がどのようにズレているのかを感じることができる。そのほかにも、ブリッジや逆立ちの状態で歩いてみるなど、体を不安定な状態にすることで、自身の軸を感じる感覚が養われていく。
自分の軸が分かるようになれば、フォームを自分で修正できるようにもなる。この感覚を養う取り組みは、堀監督のPL学園高時代の経験が影響を与えているという。
「私は高校3年生のときに打撃についてアドバイスを受けたのですが、何回打っても感覚がつかめず、結局練習のやり過ぎでフォームを崩してしまったということがありました。当時は違和感がありながらも言われたことは絶対だと思い込んでいましたが、もし自分の感覚に自信を持っていればフォームを崩すことはなかったかもしれません。
時には理屈よりも感性のほうが正しい。だから、今から自分の軸をつかめるようになってもらいたいのです」
軸を感じる感覚を養うためのエクササイズ。普段の生活では体験しない姿勢を取ることで自分自身の軸が分かるようになるという
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