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2025-07-08

今季日本選手に負けなしの森凪也が日本選手権5000mで惜敗「勝負を急ぎすぎた」スパートの誤算、引き続き世界陸上を目指し続ける

森凪也(Honda)は日本選手権5000m2位。レース後、3位の遠藤日向(住友電工)と健闘を称え合った

7月6日、日本選手権男子5000m決勝。森凪也(Honda)は2位でフィニッシュ後、トラックにヒザと額をつけで座り込み、悔しさに頭を抱えた。優勝候補と目されていたが、残り200mを前にしてスパートするも井川龍人(旭化成)に最後の直線でかわされ、優勝を逃した。

マークされるプレッシャー

「自分の強みは冷静にレースを進められるところ。ただ早く勝負を決めたいという心の余裕の無さで、少し勝負を急ぎすぎました」

レース直後、森は呆然とした表情で振り返った。そして「今回はプレッシャーがありました」と付け加えた。

初出場だった前回大会も2位。だがそのときは、「自分の力を出し切れればいい」との気持ちで臨んだためプレッシャーはなく、2位は想定以上の好結果だった。だが今季は春から“勝つこと”を自らに課し、4月の金栗記念5000mで優勝、5月のセイコーゴールデングランプリ3000mでも日本人トップとなる4位。アジア選手権5000mも最後まで優勝争いに絡み、銅メダルを獲得していた。

今季ここまでトラックでは日本人相手に負けなしで、周囲からマークされる立場。加えて森自身、「今回は予選から90人くらい出場する大会。ここで勝ちきれてこそ本物」と、この日本選手権で狙うのは優勝だけだった。そして決勝の2日前に行われた予選3組をトップで通過したあとに「ラストも力は出し尽くしていませんが。しっかり動けていました。緊張していましたが、これで1本刺激が入ったので、決勝は優勝を狙っていける」と、得意のラストスパートに手応えを口にしていた。

だが決勝の舞台、周囲のマークとプレッシャーが森の心と脚を縛った。

「レース中、僕の動きがチェックされていて、ストレスと言いますか、プレッシャーに感じていて、そこをケアしきれなかったです。ラスト1周も、今季はこれまで、もう少し人数が絞れたなかで余裕を持っていけましたが、今回はそうじゃなかった。今までやってきたレースとは勝手が違いました」


井川とのラスト勝負に敗れた森。13分38秒56で2位だった

大会前、武器である切れ味抜群のスパートについて「ラストの強さはストップウォッチでは測れません。余裕度を残しつつ、相手を見ながら確実に勝てるタイミングで仕掛けることが重要です」と語っていた。周囲の出方と状況を冷静に判断してのスパートこそ森の真骨頂。だがこの決勝の残り200m時点では周りの選手の様子を把握しきれておらず、また森自身にフィニッシュまで押し切る余裕がないまま、仕掛けてしまったという。

Hondaの小川智監督も「レース前、最後の200mを切ってから確実に勝てるタイミングでいこうと話していましたので、焦りがあったのでしょう。それにスパートしたタイミングの動きも硬いように見えました。予選の疲労もあったかもしれませんが、それ以上にこれまでマークされるレースを経験していないことと、勝たなければいけないというプレッシャーが要因だと思います」と本来の森の判断と動きではなかったと話す。


見えた課題をモチベーションに

とはいえ東京世界陸上出場に向け、標準記録突破者と世界ランキング上位者を1国3人でカウントしたワールドランキング、「Road to Tokyo 2025」では出場圏内にとどまる。そのポジションをさらに上げるため、当初、7月19日にベルギーで行われるナイト・オブ・アスレティックスにエントリーしていたが、今季は春から重要なレースが続いていたこともあり、それは取りやめ、コンディションを整えたうえで8月に海外で記録を狙いにいくことを検討中だと小川監督はレースの2日後に明かした。

「今回、こうして課題も見えましたし、まだ終わりじゃない。次へのモチベーションがあるのはいいことなので、今日負けたことはしっかり反省して、糧としていきます」

レース後の取材エリアでは最後に前向きな言葉を発した森。プレッシャーのかかるなかで結果を残す難しさを知った今回の日本選手権だった。それができる選手になることこそ、これからの課題であり、モチベーションだ。森の挑戦はこれからも続いていく。


福岡大附大濠高(福岡)→中大を経て、Hondaで実業団4年目の森。7月8日時点でWAのRoad to Tokyoランキングでは日本選手で唯一出場圏内の40位(42人中)。世界陸上出場を確実にするため8月に海外レースに参戦するプランもある

文/加藤康博 写真/中野英聡

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