close

2019-07-23

「『壁』の正体と日本の進化」後編U-20日本代表リポート/U-20ワールドカップ

5月23日から6月15日まで行なわれた『FIFA U-20ワールドカップ』はウクライナの初優勝で幕を閉じた。その中、厳しいグループを勝ち抜きながらベスト16 で敗退したU-20日本代表。果たして、チームはどのような状況にあったのか? 現地取材した記者がリポート。ここでは、その後編をお送りする。

上のメイン写真=決勝トーナメント1回戦で韓国と戦ったU-20日本代表。日本は多くのチャンスを逃し続けた結果、84分に韓国にゴールを許し、0-1で敗れた (C)gettyimages

U-20日本代表の影山雅永・監督 (C)gettyimages

実戦経験の不足

 もちろん、ただ手をこまねいていたわけではなかった。

 4月に行なった3日間の短期合宿の主目的はトレーニングではなく日本大学選抜との練習試合を通じて90分の試合を経験させることだった。しかし、「そうなるだろうなと予想していたけれど、やっぱりそうなったかという感じだった」と影山監督が顔を曇らせたように60分前後から運動量が激減し、ゲーム体力の不足を露呈した。「これを機に自覚を持って取り組んでもらえれば」という指揮官の発言を受け、大会へ向けて状態を上げてきた選手も多かったそうだ。

 それでも、実戦をこなす回数が絶対的に不足していたのだろう。今大会の負傷者続出と日本のU–20年代が置かれている状況に関係がないとは思えない。大会直前からコンディショニング重視の調整を行なったとは言え、こうした対策が付け焼き刃だったのは否めない。

 ラウンド16での日韓戦はこうした流れの中で迎え、0–1の敗戦を喫した。日本が韓国を大きく上回った前半に対し、韓国のA代表でもあるMFイ・ガンジン(バレンシア/スペイン)は「前半は我慢して耐えるしかなかった」と振り返る。後半になると5バックから4バックにシステムを変えて韓国が殴り合いを挑んできたが、日本のほうが多くのチャンスをつくった。にもかかわらず、チャンスを逃し続け、クリアミスを拾われての放り込みからヘディングで競り負けるというシンプルな形で決勝点を許した。

 韓国戦の敗因を簡単に語ることはできない。しかし、藤本や宮代、そして郷家が復帰してはいたものの、負傷者の続出によってコンディション面に不安を残していた影響は否めない。影山監督が積極的な交代策を打ち出せなかったのは、こうした選手たちが延長戦を含めてフルに戦える確信を持てなかったこと、切り札となるべき選手がそもそもベンチにいなくなってしまったことがあっただろう。

 高強度のプレーを求められる世界大会で連戦を戦い抜く難しさ、連戦を通じて露呈することになるレギュラー・メンバーと「次点」のクオリティー差が「16強の壁」と表現されるものの正体の一つと考える。そしてこれらの問題点は、ロシア・ワールドカップ、そして17年開催のU–20とU–17のワールドカップでも共通して見られた。

 もっとも、各年代のワールドカップで「16強」という結果を残している国は稀有な存在でもある。日本サッカーの力を過剰に低く見積もったり、悲観したりする必要もないように思う。影山監督も「育成年代のリーグ戦が当たり前になる中で育った彼らは相手の戦い方やその変化を見て自らの戦いを柔軟に変化させることを普通にやれるようになってきた」と日本サッカー自体の前進を前向きに捉えている。しばしば指摘されてきた球際の弱さなども今大会では特に感じられなかった。技術のある選手がファイトし、「ハードワークするのは現代サッカーで当たり前」(影山監督)というのが根づいたことも実感できた。試合を決定づけられたはずの「3つの個」を大会直前にA代表招集という形で失う誤算がありながらの16強でもある。

 ただし、もう少しやれた、もっと上までいけたはずという悔恨を残す大会でもあった。

「(今大会で出た課題を)日本国内にしっかりとフィードバックし、そして国内でのさまざまな指導者や選手の努力につながるように伝えていきたい」と影山監督は言う。日本サッカーの前進を感じさせた大会だからこそ、課題にもフォーカスしながら国内にある「日常」を進歩させていく必要がある。

(取材・構成/川端暁彦)

U-20日本代表の試合結果

■第1節(2019年5月23日)

日本 1-1 エクアドル
得点者=(日)山田(68分)
選手交代=(日)<9>斉藤光(46分、in<13>宮代)、<6>郷家(66分、in<14>西川)、<16>山田(91分、in<20>中村)

■第2節(2019年5月26日)

日本 3-0 メキシコ
得点者=(日)宮代2(21分、77分)、田川(52分)
選手交代=(日)<9>斉藤光(76分、in<20>中村)、<8>藤本(81分、in<7>伊藤)、<13>宮代(87分、in<18>原)

■第3節(2019年5月29日)

日本 0-0 イタリア
選手交代=(日)<11>田川(22分、in<20>中村)、<9>斉藤光(78分、in<15>鈴木冬)、<14>西川(86分、in<18>原)

■決勝トーナメント1回戦(2019年6月4日)

日本 0-1 韓国
選手交代=(日)<6>郷家(68分、in<20>中村)、<15>鈴木冬(88分、in<2>東)、<8>藤本(88分、in<18>原)

決勝ではウクライナが韓国を3-1で下し、初優勝を果たした (C)gettyimages

前編はこちら

サッカークリニック 2019年8月号

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事