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2019-07-23

「『壁』の正体と日本の進化」前編U-20日本代表リポート/U-20ワールドカップ

5月23日から6月15日まで行なわれた『FIFA U-20ワールドカップ』はウクライナの初優勝で幕を閉じた。その中、厳しいグループを勝ち抜きながらベスト16 で敗退したU-20日本代表。果たして、チームはどのような状況にあったのか? 現地取材した記者がリポート。ここでは、その前編をお送りする。

上のメイン写真=U-20日本代表は戦前の予想を覆して決勝トーナメントに進出したが、1回戦で韓国の前に屈した (C)gettyimages

U-20ワールドカップ日本代表メンバー(写真は第2戦のメキシコ戦のスタメン) (C)gettyimages

負傷者続出の理由

 日本にとって通算10度目の出場となったU–20ワールドカップは2大会連続のベスト16という結末だった。過去を振り返れば、2017年のU–20ワールドカップとU–17ワールドカップ、そして18年のロシア・ワールドカップでも日本はベスト16で大会を去っている。

「そこに壁がある」と言っていたのは前回のU–20ワールドカップで日本代表を率い、今大会の内山篤・団長と17年のU–17ワールドカップにも出場しているDF菅原由勢の2人である。もちろん、大会ごとに異なる部分も多いのだが、「壁」について「共通する要素」もあると感じている。あらためて共通要素を考えてみたい。

 南米王者であるエクアドル、この年代の大会で安定した成績を残し続けているメキシコ、そしてヨーロッパの伝統国であるイタリアが同居するグループは決して楽なものではなかった。それは、エクアドルとイタリアの両国がベスト4に入ったことからも分かる。それでも、グループステージの3試合を日本は順調に乗り切り、グループ2位の座を確保した。

 まずは、各試合を振り返ろう。

 エクアドルとの初戦の前半は「ひどい試合をしてしまった」という声が選手から漏れるほどの内容だったが、これは世界大会の初戦が醸し出す独特の緊張感が多分に影響したからだろう。影山雅永・監督は「自分がエクアドルの脅威を言いすぎたのかもしれない」と反省していたが、選手たちの戦いぶりは「腰が引けていた」と言われても仕方のないものだった。リスクを避けたロングボール攻撃を繰り返し、ボールの落ち着きどころを欠いた。

 しかし、こうした攻撃一辺倒になった背景には「スカウティング通り」(菅原)の弱みをエクアドルの守備陣が見せていたこともある。背後への長いボールに対して判断を誤ることがあるという分析通りにエクアドルの守備陣が脆さを見せ、快足FW田川亨介のランニング・プレーがハマるシーンがあったのだ。「気持ちが入ってなかったというより、むしろ集中しすぎてみんな視野が狭くなっていた」(菅原)ということもあり、積み上げるように取り組んできた攻撃の形を披露できなかった。しかも、前半終了間際にFKから失点するという最悪の流れで前半を終えた。

 ただし、今回のU–20日本代表はこうした逆境で崩れないチームでもあった。ハーフタイムには「何をしにここへ来た!」という影山監督の檄を受け、後半開始直後にVARで与えたPKもGK若原智哉のビッグセーブでしのいで一気に試合の流れを引き寄せた。その後は南米王者を上回る試合内容を演じて追いつき、勝ち点1を手にした。

 メキシコとの第2戦はチーム結成以来のベストゲームだったかもしれない。開始早々は相手が予想外の布陣で奇襲攻撃を仕掛けてきたために混乱した場面も見られたが、悪い流れをうまくしのぐと、日本が完全にペースをつかんだ。「相手の対応を見ながらビルドアップを変える」が機能し、面白いようにメキシコのプレスを外してボールを運べるようになった。特にボランチの藤本寛也が左サイドバックの位置へ落ちて左サイドを押し上げ、左MFが中へ入るローテーションにメキシコは対応できなかった。難敵メキシコを3–0と下し、内容的にも完勝と言って良かった。

 しかし完勝劇の裏側では、日本の弱みが露見しつつあった。FW宮代大聖とMF藤本が負傷し、MF郷家友太もコンディション不良のために別メニュー調整となり、第3戦の出場が不能となったのだ。『コパ・アメリカ』に出場するA代表へ3選手(MF久保建英、MF安部裕葵、GK大迫敬介)を供出して薄くなっていた選手層の問題が顔を出し始めた。

 引き分けでも突破の決まるイタリアとの第3戦では田川が早々に肉離れとなって負傷退場し、MF斉藤光毅も相手との接触で負傷して交代を余儀なくされた(この2人は離脱して帰国)。さらにDF三國ケネディエブスもフル出場したものの、負傷。三國はセンターバックの唯一のバックアップ役だけでなく、192センチという長身を活かした攻撃のオプション役も担っていたため、攻撃の選択肢も削られる格好となった。DF鈴木冬一もイタリア戦後に違和感を訴えて2日間別メニューでの調整となり、一時は稼働できるフィールド・プレーヤーが13人になっていた。

 イタリアを破って1位通過だった場合、中3日でラウンド16を迎えていた。実際には引き分けでの2位通過となって中5日の時間ができたことにチームのスタッフから安堵の声が漏れたのも無理はなかった。ハイレベルなグループを1勝2分けの無敗で駆け抜けたが、チームの戦力は歯抜け状態になっていた。

 一方、負傷していない選手の状態も芳しくなかった。第3戦に際してはMF山田康太が「正直、肉体的にも精神的にもパワーが出なくなっている」と口にしたように、疲労感を吐露する選手が少なくなかった。中2日の3連戦というそもそもタフなスケジュールに加え、世界大会特有の緊張感やハイレベルな対戦相手に対抗するための高強度のプレーが加われば、肉体が悲鳴を上げるのも無理はなかった。

 肉体面に関しては、「U―20年代特有の問題」も絡んでくる。影山監督が「大会前はとにかくコンディショニングの部分をやるしかない」と語っていた背景には「所属チームで90分ゲームに出られていない選手が多い」という事情がある。今大会の出場選手には昨年まで高校3年生だった者も多く、そうした選手のほとんどは今年から加わったプロのチームでレギュラーになっていない。さらに、移籍したことで出場時間が減った田川や昨年まではレギュラーだったが大型補強の煽りを受けてポジションを失った郷家のような選手もいる。そうした状況を感じ取った影山監督は「この世代は去年までJリーグの試合に出ている選手が多いと言われていたけれど、そうではなくなってきている」と大会前から危機感を募らせていた。

(取材・構成/川端暁彦)

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