close

2019-07-04

「千葉2強」を連破! 33年ぶりインターハイ出場の 日本体育大学柏高校。 悲願達成の秘策に迫る

6月19日に行なわれたインターハイ(全国高等学校総合体育大会・男子サッカー競技)千葉県大会を制し、33年ぶりとなる本大会出場(沖縄県で開催。7月25日~8月1日)を決めた日本体育大学柏高校(以下、日体大柏)。市立船橋高校、流通経済大学付属柏高校という「千葉2強」であり、全国レベルの力を持つ2校を準決勝、そして決勝で連破し、つかんだ全国大会の出場権だった。『サッカークリニック』では、3年前の2016年7月号で当時の日体大柏が行なっていた新しい取り組みをリポート。あれから3年後に果たした悲願達成だった。そのきっかけや理由に迫るため、当時の内容を一部編集し、掲載する。

(出典:『サッカークリニック』2016年7月号)

上の写真=33年ぶりにインターハイ出場を果たした日本体育大学柏高校(千葉県)。7月25日(開会式)に始まる本大会では、1回戦で五條高校(奈良県)と戦う ©日本体育大学柏高校

高校サッカー部に
Jクラブのメソッドを注入

 日体大柏という名前に聞き覚えのない方も多いかもしれないが、2016年4月に名称変更するまで柏日体高校として創立55年の歴史を持つ学校だ。日本体育大学の姉妹校である日体大柏は「スポーツの盛んな進学校」を掲げ、部活動ガイドの冊子には東京オリンピック代表選手の輩出を目標とするレスリング部や世界ジュニア選手権優勝者を育成している相撲部などの強化指定クラブが大きく紹介されている。その部活動ガイドで1ページにわたってサッカー部の取り組みについての紹介文が掲載されていた。そこにはこうある。

「“柏レイソル”との本格提携で全国制覇を目指す。」

 日体大柏はJクラブとの提携という新しい強化策によって、市立船橋高校や流通経済大学付属柏高校などがしのぎを削る激戦区・千葉の勢力図を変えようとしていた。

 日体大柏は15年2月、千葉県柏市をホームタウンとするJクラブであり、地域密着の考えを持つ柏レイソルとアライアンス(相互支援)契約を締結し、本格的な交流をスタートした。提携が実現したことによってまず、柏レイソルでプレーしたMFの永井俊太氏(現在は柏レイソルU-18のコーチ)が日体大柏のサッカー部へヘッドコーチとして柏レイソルから派遣されたほか、常時ではないものの、日体大柏サッカー部員が柏レイソルU-18のトレーニングに参加するという試みも始まった。

 16年に柏レイソルU-18のトレーニングに参加し、FWとして注目を集めた浦山雄介(当時は3年生でキャプテン。現在は東洋大学)は「みんなうまくてなにもできないまま帰ってきた感じです。高いレベルがあるんだなと感じました」と言った。実は、柏レイソルU-18に所属する選手の大半は日体大柏に在籍している。身近なライバルから得た刺激は成長の糧となっているようだ。

 刺激を受ける以外にも日体大柏の選手が得られるメリットはある。その1つは、日体大柏で抜きん出た選手がよりプロ入りの可能性を広げるため、柏レイソルU-18へと登録変更するというものだ。16年にもそれが実現している。柏レイソルU-18所属のGKが長期離脱したこともあり、日体大柏からGK斎藤光樹(当時は2年生。現在は江戸川大学)が柏レイソルU-18所属へと登録を変更し、プロに近い位置でサッカーに取り組む機会を得ている。また柏レイソルのトップチームと練習試合を戦う際、柏レイソルU-18の一員として日体大柏の選手が数人出場し、プロの選手たちのスピード、強さを体感したという。加えて、日体大柏の『アスリートコース』に籍を置く1年生選手が週2回、各2時間ある専門体育の授業内で柏レイソルの練習場である日立柏グラウンドで柏レイソルのアカデミーコーチから指導を受ける機会を得るなど、ほかの強豪校とは違う強化が進められていた。

柏レイソルとの提携によりチーム力強化と育成組織を整備した日本体育大学柏高校。全国トップクラスのライバルを破り、全国大会への道を切り開いた(写真は2016年のもの) ©吉田太郎

2つの長所を融合し、
ハイブリッド・サッカーで目指した頂

 この提携には柏レイソル側にも大きなメリットがある。

 15年は元U-20日本代表の永井氏、翌16年は元日本代表MFでもある酒井直樹氏(現在は日体大柏の監督)という選手としての実績も持つ柏レイソルのアカデミーコーチが日体大柏のヘッドコーチに就任し、高体連の強豪校を指揮することによる指導者育成が期待されている。また、柏レイソルのアカデミーコーチに高校でも引き続き指導されるという理由で、日体大柏には柏レイソルU-15や柏レイソルA.A.TOR‘82などの育成組織から柏レイソルU-18へ昇格できなかった選手たちが多数進学。結果、柏レイソルのアカデミーコーチたちは中学3年間から継続して彼らを指導することができるようになった。

 一方、中学年代では成長のペースが遅かった選手も、柏レイソルのアカデミーコーチが見守る環境の中で継続してプレーできる。評価を高められれば、柏レイソルのトップチームへ入団できるという道ができた。

 柏レイソルのU-15出身で、当時日体大柏の2年生だった選手は言った。

「日体大柏のサッカーを初めて見たときに『レイソルっぽいサッカー』だなと思いましたし、これだったら今まで(中学時代に)3年間積み上げてきたものを活かせるんじゃないかと思いました。そして、(柏レイソルのアカデミーコーチに)教えてもらえるのは日体大柏に入るのを決めた理由。僕らの代(16年当時)には、日体大柏へ進学した選手が5人いるんですけど、『(高校でも)レイソルの人たちに教えてもらって、戻れたらレイソルに戻ろう』というのも理由でした」

 将来、Jリーガーとして柏レイソルに戻るという目標を持つ選手たちの加入、成長が、日体大柏のチーム力をまた高めている。

(取材・構成/吉田太郎)

現在は日本体育大学柏高校の監督を務める元日本代表の酒井直樹氏(写真は2016年のもの) ©吉田太郎

<指導者プロフィール>

酒井直樹・監督
1975年、千葉県生まれ。柏レイソルの育成組織出身で94年にトップチーム昇格。元日本代表MF。2001年まで柏でプレーし、その後、コンサドーレ札幌に2シーズン在籍。現役引退後は柏レイソルU-12監督や柏レイソルU-15監督などを歴任。16年1月、柏から派遣される形で日本体育大学柏高のヘッドコーチに就任。18年から監督を務める

おすすめ商品

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事