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2025-08-05

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第32回「ハプニング」その4

突然の大雪に見舞われた初場所2日目の国技館

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人生には思いがけないトラブルやハプニングはつきものです。
だから面白い、とも言えます。
何事もなく、淡々と過ぎていく人生なんて、つまらないと思いませんか。
土俵の上も、予想もしない、いや、できない出来事に満ちています。
そんなときの力士たちの表情や反応はまさに一瞬の名優です。
とても筆舌には尽くしがたいものがありますが、あえてその不可能にチャレンジし、
筋書きから外れたハプニングに直面したときの力士たちの表情にスポットを当ててみました。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

雪道も基本はスリ足

平成25(2013)年初場所2日目、爆弾低気圧が発達し、東京都心でも8センチの積雪があった。この天のハプニングに、国技館のある両国への大事な足のJR総武線も運転を見合わせるなど、とんだ積雪狂騒曲が繰り広げられたが、振り回されたのは観客だけではなかった。

力士たちも場所入りの足の確保に必死で、いつもはクルマ通勤の大関稀勢の里(のち横綱、現二所ノ関親方)も道路が大混雑だったため、急きょ、電車と徒歩に切り替え、最寄りのJR馬橋駅から久しぶりに電車に乗った。突然、体の大きな力士が電車に乗り込んできたので、さぞかし乗客もビックリしたはずだが、

「なんの反応もなかったです」

と稀勢の里は拍子抜けの態だったが、問題は電車を降りたあとの雪道歩き。積雪の少ない茨城県出身だけに、

「積雪の歩き方が全然分からず、怖かった。やっぱり重心を少し下げて、スリ足が一番いいみたい。そうやってやっと国技館にたどり着きました」

と苦笑いした。しかし、この稽古場さながらの効果はてきめん。この日、西前頭2枚目の旭天鵬(現大島親方)を素早い攻めで寄り切り、支度部屋に引き揚げてくると、

「出足が良かった」

と笑顔だった。

月刊『相撲』平成25年6月号掲載

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