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2018-12-21

全国大会に出場するチームが語る 『8人制サッカーの 賢い活用術と練習法』

上の写真/『JFA 全日本U-12サッカー選手権大会』に2年連続2回目の出場を果たした岡山県の『Jフィールド津山SC』 ©石倉利英

2011年、『全日本少年サッカー大会』(今年から大会名が『JFA全日本U-12サッカー選手権大会』に変更)が11人制から8人制となった。
以来、指導現場ではさまざまなことが議論されており、トレーニングや試合を通して感じているメリットやデメリットが各チームにあるようだ。
12月25日から始まるこの大会に岡山県代表として出場する『Jフィールド津山SC』を率いる田渕幸一・ジュニア監督に考えを聞いた。
8人制サッカーの賢い活用術と練習法とは、何だろうか――?
(出典:『ジュニアサッカークリニック2018』)

『JFA 第42回全日本U-12サッカー選手権大会』ではグリープBに所属。Jフィールド津山SCは、アビスパ福岡(福岡県)、兵庫FC(兵庫県)、FCフェルボール愛知(愛知県)と戦う ©石倉利英

人間性と自立を大切に
子供だけで問題を解決

――『Jフィールドサッカークラブ』は岡山と津山にクラブがあり、岡山は2005年、津山は07年に設立されています。どんなことを大事にして指導していますか?

田渕 『Jフィールド津山』は津山市を中心とした岡山県北部全体のサッカーのレベルアップを目指して設立されました。椿本将・代表の下、クラブとして最も大事にしているのは、子供たちの人間性を育てることです。情報があふれている現在は、「自分で考えることができない」、「動けない子供が増えている」と感じています。そういったことを何とかしたいという思いを強く持っています。
 人間性をないがしろにしてサッカーだけを教えても、中学校や高校で苦しい思いをすることになります。人間性を育てることを意識しているとサッカーもいい方向に進んでいくものです。幼稚園児から受け入れていますが、あいさつなどの指導は低学年のときから徹底するようにしています。

――人間性を育てるためにどんなアプローチをしていますか?

田渕 特に意識しているのは子供たちの自立です。子供の世界では、友達とのトラブル、コーチの厳しい指導など、いろいろな問題が起こりますが、指導者や保護者がすぐに手助けするのではなく、子供たち自身で解決するように促しています。保護者にも同様のスタンスで見守るようにクラブからお願いし、何かあっても子供たちだけで解決させるようにしています。
 何か問題が起こったことに気づいても、まずは黙って見ています。状況によって最低限のアドバイスをすることはありますが、時間がかかるとしても我慢して見守ることを繰り返していれば、子供たちだけで気づいて解決していくようになります。『全日本少年サッカー大会』(以下、全少)に初出場した2017年度の6年生を私は4年生から見ましたが、過去にないメンタリティーを持った選手がそろっていました。勇気を持っていろいろなことを徐々に発言できるようになり、それがサッカーの結果にもつながったと思います。

――プレー面の指導で大事にしていることは何ですか?

田渕 足元の技術です。しっかりできるようになるために時間をかけてやっています。もう一つ大事にしているのが、試合では勝つために効果的なプレーをすることです。この二つを並行して教えるようにしています。日々の練習は大切ですが、選手たちが最も伸びるのは試合だと考えています。練習はあくまでも練習です。試合になれば状況も相手も違いますし、いろいろなことが起こります。ベースとなる技術を伸ばす練習と技術を活かす試合をつなげていくことを考えながらやっています。
 私たちの試合だけを見た人は、試合に勝つためだけに特化した練習をしていると思われるかもしれません。でも実際には、普段の練習では基礎を積み重ねています。選手たちが練習と試合で違うものを覚えられるようにと考えているのです。

――試合で効果的なプレーとはどんなプレーですか?

田渕 大切にしているのは「相手の裏をかく」、「相手をだます」です。ドリブルで右に行くと見せかけて左に行ったり、目線と違う方向にパスしたりすることです。素直なプレーは試合になると有効なものにはなりません。先ほど話した「自立」とつながるのですが、ボールを持ったときには、局面と状況に応じて選手が自分で判断してプレーしなければいけません。相手に動きが読まれるようであれば、プレーが素直すぎるということでもあるため低学年の頃から重点を置いて指導しています。
 私は地元の岡山県作陽高校のOBです。恩師である野村雅之・総監督と、育成年代の指導について話したとき、所属するチームのやり方以外でもきちんとプレーできること、アドリブで何かやらせても対応できることの重要性を語っておられました。その点も意識しながら、自発的に動いていろいろなことに対応できる選手に育ってほしいと思っています。

8人制のスペースを
効果的に使う

――ジュニア年代が11人制から8人制に変わり、どんな違いを感じていますか? その違いによって指導する際に変えたことはありますか?

田渕 8人制になってサッカーがスピーディーになったのは大きな変化だと思います。人数が減ったことで運動量も求められるようになりました。その中で変えたのは試合でのスペースの使い方です。サッカーはスペースの奪い合いでもあります。スペースに走り、スペースにパスが出てプレーがつながっていきますし、ドリブルでスペースを突くこともあります。8人制は11人制よりもスペースがあるため、スペースを効果的に使えることが大きなポイントです。
 ゴールキーパーがボールを大きく蹴り、スペースに走ったフォワードにつながってワントラップしてシュート、という得点シーンは8人制でよく見ます。試合では効果的なので悪いとは思いませんし、私たちも状況次第で狙っていきます。一方、スピードや運動量で劣る面はあっても、技術がしっかりしていてパスを正確につなげるような選手を、どのようにチームに組み込んでいくのか、という難しさも感じるようになりました。

――試合で効果的なプレーを教えることと日々の練習で基礎技術を高めることのバランスはどのように考えていますか?

田渕 あまり難しくは考えていません。小学生は真面目で素直です。指導者が「それは違う、こうだろう」と言ったら、自分で考えるのをやめてコーチに言われた通りにやってしまいます。そうはせず、練習のときに基礎技術をしっかり意識させていれば、試合でも要所で基礎を活かすプレーは出てくると考えています。
 私たちは全国レベルの強豪チームと対戦するとき以外、試合では相手に守りを固められることが多いので、速攻でスペースを突くことは難しくなります。そうなったときはショートパスやドリブルを駆使しながら崩していくことになり、基礎技術の練習成果が問われます。真剣勝負になればなるほど、試合中のプレーはシンプルになりますが、練習で積み重ねた技術の試合での使い方は選手たち自身に意識させるようにしています。

責任感が増す8人制
速さに頼る欠点もある

――育成における8人制の良さはどんな点だと思いますか?

田渕 11人制だと1人くらいがさぼっても試合になりますが、8人制はマンツーマンに近い感じになることが多い分、選手全員がしっかりプレーしなければいけません。1つのミスから失点することもありますから、一人ひとりの責任感は強くなると思います。また、8人制になって1人に求められる運動量が増えたため、走れる選手が増えているのはいいことだと感じます。

――逆に、デメリットを感じるところはありますか?

田渕 先ほど話した通り、8人制のほうがスペースはあるため、相手に能力の高いアタッカーがいると対応が難しくなります。また、スペースに蹴って走るドリブルをする選手も増えました。そのようなドリブルは確かに試合では効果的ですが、緩急やコースを変えて抜く選手や、個々のアイディアや工夫が減っているように感じます。
 また、2017年度から全少でも採用された『1人制審判』という制度は、運営面などでメリットは大きいのでしょうが、オフサイドの駆け引きを考えることを選手がやめてしまうのでは、という思いもあります。オフサイドにならないようにする駆け引きは、副審が見て判定してくれれば微妙な成否も分かります。しかし1人制審判では限界があり、本当はオフサイドなのか、そうでないのかが明確になりません。いずれ11人制をプレーするのですから、ジュニア年代から副審のいる試合を経験しておくことも必要と思います。

――Jフィールド津山にはジュニアユースがありますが、中学年代以降の11人制へのつなげ方はどのように考えていますか?

田渕 技術面で特に意識すべきことはほとんどないと考えています。ボールを持ったときの技術、持っていないときの駆け引きなどをジュニア年代で身につけておけば、11人制ではピッチが広くなり、走る距離が長くなるだけです。
 メリットで付け加えると、8人制は準備や反応を早くしなければいけませんので、全員が感覚を研ぎ澄ませる必要があるのはいいことだと思います。

(取材・構成/石倉利英)

Jフィールド津山SCのトレーニング・メニュー

練習1 「7対3」

練習1 「7対3」

進め方:(1)タッチ制限なし。(2)守備側の1人がボールを奪ったら、奪われたボール保持側の1人と交代
ポイント:(1)試合と同じ状況をつくるのが狙い。8人制のフィールド・プレーヤーの7人がタッチ制限なしでボールをつなぐ。(2)守備側は試合では3人でピッチの横幅を守る状況が多いため、連係しながら追い込み、ドリブル突破も警戒しながら守る力を養う

練習2 相手を背負った状態での「1対1」

練習2 相手を背負った状態での「1対1」

進め方:(1)タッチライン沿いに攻撃側が守備側を背負う。(2)攻撃側は縦パスを受けたあと、ターンしてゴールを目指す。(3)守備側はボールを奪ったら、スタート地点の左右にあるコーン間をドリブル通過。(4)左右で交互に行なう
ポイント:(1)スピードに乗った突破は守備側には脅威になるため、攻撃側はファーストタッチでスペースに抜けることも意識。(2)守備側は簡単に足を出して入れ替わられてしまうことが多いため、振り向かせないようにしつつ、相手のスピードに対応できるように半身の体勢で守る。(3)スピードに乗った状態だと攻守ともにミスが出ることが多いが、試合に近い状態でプレーする

練習3 スペースへのラン&パスからの「1対1」

図3 スペースへのラン&パスからの「1対1」

進め方:(1)攻撃側はふくらみながらパスを受ける。(2)守備側は横パスを出したあとにピッチ内に入り、「1対1」を開始。(3)攻撃側はゴールを目指す。(4)守備側はボールを奪ったら、スタート地点の左右にあるコーン間をドリブル通過⑤左右で交互に行なう
ポイント:(1)攻撃側はスピードに乗った状態でのファーストタッチの精度と寄せて来る守備側の動きの逆をとるドリブルを意識。(2)守備側は攻撃側のスピードが落ちないように正確にパス

指導者プロフィール

田渕幸一(たぶち・こういち)/ 1976年、岡山県生まれ。『津山FC』から岡山県作陽高校に進み、卒業後は金光薬品サッカー部、NTN岡山でMF、FWとしてプレー。2007年に『Jフィールド津山』の立ち上げと同時に指導者となり、同クラブのジュニアユースとの掛け持ちの時期も含めてジュニア年代を指導。17年の『全日本少年サッカー大会』(今年から大会名が『JFA 全日本U-12サッカー選手権大会』に変更)に初出場し、ベスト16に進んだ。今年も同大会への出場を決めた

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