close

2025-11-20

【アイスホッケー】スターズ神戸とアイスバックス① 矢野倫太朗

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • line

今年7月にスターズ神戸と合流。「バックスで経験できたのが、ハードな日常生活の積み重ね。1年でもそれを経験できたのは大きいです」という(ⒸSTARS KOBE)

全ての画像を見る
 今季からアジアリーグに加盟した「スターズ神戸」。ここまで11試合を行なって11連敗と、11月20日現在、まだ勝ち星を挙げるには至っていない。今月末の29日、30日には、地元・兵庫の「尼崎スポーツの森アイススケートリンク」で、前身の古河電工チームを含めて創部100年の「栃木日光アイスバックス」2連戦が予定されており、スターズには日光にゆかりのある選手・スタッフが多く、一段と気持ちが高ぶっている。スターズ神戸の選手に話を聞いてみた。

1つのプレーにかける「熱量」
それがバックスから学んだこと
 
 11試合で11連敗。白星をつかみきれてはいないものの、思ったほどには悪くない…それがスターズ神戸の現時点での評価だ。

 同じ港町の横浜グリッツとリーグ最初の試合を戦ったスターズ神戸。9月21日の2戦目で2-2のタイに持ち込み、延長戦でPS戦(ペナルティシュート戦)で敗れたとはいえ、勝ち点「1」を手にした。地元・兵庫での「開幕カード」となったレッドイーグルス北海道戦では、11月2日、1-2と接戦。昨シーズンのリーグ優勝チーム・HLアニャン(韓国)との3連戦では、11月8日、3ピリ46分までリードを保っていた。現在、アジアリーグで首位を行くレッドイーグルス、そして2位のアニャンに対して、試合の見せ場はつくっている。

 29歳の矢野倫太朗は、ここまで個人記録は1アシストのみ。だが、アニャンとの第3戦(11月9日)では、1ピリ19分、弟・竜一朗のアシストで矢野倫が同点弾というシーンがあった。ハイスティッキングにより「得点なし」という判定になったが、もし決まっていたら1-1になっていた。

 矢野倫は言っている。「リーグが開幕してすぐのころは、アジアリーグで勝利を挙げる執念みたいなものが足りなかったと思うんです。小さいバトルに勝ち続けるだとか、1試合を通して集中し続けるとか、それができないことで、気が付いたら試合で大差をつけられることが多かったんです。それが、試合を積み重ねることによって、だいぶ改善されてきた。スターズの初勝利は、あと一歩のところまで来ているんじゃないかと思います」

 昨季の1年間、矢野倫はアイスバックスでプレーしていた。2023年に続いて2連覇の全日本選手権、そしてジャパンカップ優勝と、1年間とはいえ、矢野倫にとって貴重な経験を積み重ねた。

「バックスは、1日にかけるアイスホッケーへの熱量がすごいんです。1つ1つのプレーの精度。そこに全員がストイックに向き合っている。1つのバトルで勝つか、負けるかに、自分のすべてをかけているんです。この積み重ねがバックスの全日本の連覇につながっているんだ。そう僕は納得したんです」


「ファンの方の声援が、試合に勝つために必要。僕は本気でそう思っているんです」と矢野倫。昨季のベストゲームは「全日本選手権の決勝戦」。それを上回る記憶を、スターズ神戸で実現したい(ⒸSTARS KOBE)
「ファンの方の声援が、試合に勝つために必要。僕は本気でそう思っているんです」と矢野倫。昨季のベストゲームは「全日本選手権の決勝戦」。それを上回る記憶を、スターズ神戸で実現したい(ⒸSTARS KOBE)

「いつも変わらず朝早くから準備する。
勇利さんに大きな刺激をもらいました」

 矢野倫に強烈な印象を残した、バックスのアイスホッケー。とりわけ思い出に色濃く残っているのが、矢野倫にとって1年先輩の寺尾勇利(FW)の存在だった。

「勇利さんは、練習が朝早く始まる日でも、しっかり準備している人でした。寒い日や天気が悪い日もあるんですけど、勇利さんは変わらず朝早くから準備していた。試合のない週は、高強度のトレーニングをしていましたし、やっぱり1回1回のトレーニングから本気なんです。僕も練習しているつもりだったけど、上には上がいる。そう思いました」

 1995年生まれの寺尾は、栃木・日光東中の2年、3年で全国中学校選手権で優勝している。当時から現在まで、寺尾はハードなトレーニングを自らに課しているのだ。「松坂世代とか、今なら大谷世代って言いますけど、当時のアイスホッケー界は寺尾勇利世代です。勇利さんは、昔も今も変わらない人です」

 昨季の1年間、矢野倫はアジアリーグでは1ゴール3アシスト。シフトが思うように得られなかった試合も多かった。

「アイスタイムが少なくて、僕は試合が終わると、1人でジムに行ってトレーニングしていたんです。そんなとき、決まって勇利さんもジムに来ていたんですよ。勇利さんは試合で活躍していたのに、それでもトレーニングには来ていたんです」

「勇利さんはそのときに、ホッケー選手は練習しているヤツが勝つんだって言っていました。練習しないで活躍するヤツもいっぱいいるけど、そんな選手には深みがない。練習して、苦労して、それで試合で活躍したら、深みが出るじゃないか。俺たちは、そこを目指していくべきなんじゃないかって。それがプロの姿だろうって言っていたんです」

「勇利さんが、お前のゴールは、きっと誰よりも価値があるよって言ってくれました。僕は去年、なかなかゴールが決まらなくて、自分なりに苦しんでいたんですけど、その言葉に救われた。勇利さん自身はもう忘れていると思うんですけど、自分にとっては、ずっと忘れられない思い出なんです」

 29日、30日のアイスバックス戦。果たしてどんな試合になるのだろう。

「アイスホッケーって、両チームがハードワークしたら、地力の差が少しくらいあっても勝敗がどちらに転ぶかわからないスポーツなんです。まずは60分間、ハードワークする。選手が最善を尽くして、毎シフト、100パーセントの力を出す。それができて、初めてバックスに勝つチャンスが生まれてくると思うんです」

 アイスホッケーは、球技の中でもとりわけ番狂わせが少ないといわれるスポーツだ。ただ、実力的に下と思われるチームが勝つ確率も、間違いなくあるのだ。

 11月9日のアニャン戦では、得点が認められなかった矢野倫。29日、30日には、晴れて今季初ゴールを決められるだろうか。「お前のゴールは、きっと誰よりも価値があるよ」。1年前にそう言っていた寺尾は、そのとき、どんな顔をするのだろう。

※11月29日(土)と30日(日)の「スターズ神戸」と「H.C.栃木日光アイスバックス」2連戦の詳細は、スターズ神戸の公式サイト

⁦https://stars-kobe.com/⁩



矢野倫太朗 やの・りんたろう
スターズ神戸・FW。背番号「14」。身長177センチ・体重81キロ。1996年10月1日生まれ。福岡県福岡市出身。福岡香椎ヒリューズでアイスホッケーを始め、福岡ゴールデンジェットから北海道・苫小牧東高、中央大学。卒業後は一般企業に就職し、2020-2021シーズン途中にグリッツ入り。2023-2024シーズンはフリーブレイズ、2024-2025シーズンはアイスバックスでプレーし、今季からスターズ神戸へ移籍する。クレインズ、ワイルズにも在籍した弟・竜一朗も神戸に入団し、今季は念願の「ラインメート」としてプレーしている。「人生で初めて神戸での生活をしています。六甲の山なみ、阪急沿線で環境もよくて家族も気に入っているんです」

山口真一

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事