今季からアジアリーグに加盟した「スターズ神戸」。ここまで11試合を行なっており、11月20日現在、まだ勝ち星を挙げるには至っていない。11月29日・土曜日は16時から、30日・日曜日には14時から、地元・兵庫の尼崎スポーツの森アイススケートリンクで、前身の古河電工チームを含めて創部100年の「栃木日光アイスバックス」2連戦が予定されている。スターズには日光にゆかりのある選手やスタッフが多く、いっそう気持ちが高ぶっているようだ。今日はスターズ神戸のDF、渡邉亮秀選手に話を聞いてみた。
地元・兵庫での開幕シリーズでは豪快なスコアとパフォーマンスが スターズ神戸は試合の消化がリーグで一番少なく、ここまでで11試合。それでいて渡邉亮秀は、アジアリーグのDFでは6チーム中2位の5ゴールだ。10月は、日本アイスホッケー選手会の「月間MVP」に選ばれている。言ってみれば、スターズから初めての「表彰選手」だ。
渡邉は「アジアリーグの選手から評価してもらったのは、素直にうれしかったです」とひとこと。あれ、それだけですか? 渡邉らしいといえば渡邉らしい。嘘っぽい言葉は使わずに、本当に根が素直なのだ。
スターズ初の地元開催、対レッドイーグルス2試合目の11月2日、あれは第2ピリオドだった。スターズは、0-2のビハインド。このまま3点目を取られてしまうのか、それとも、ここで点を決めて1-2とするのか。勝負のアヤとなる場面だった。
試合時間がちょうど半分に差し掛かった、2ピリ10分。渡邉はDゾーンからFWにつないでダンプインし、ゴール裏から回ってきたパックを左の遠い位置からネットにたたき込んだ。「アイスホッケー」のイメージそのままの豪快なスコアシーン。渡邉は観客席に向かってガッツポーズをして、「試合はこれからだろ? 俺たちにもっと声援をくれよ」とばかりに、1000人を超える地元のファンにアピールした。
「あの時のポーズはですね、前にどっかで見たシーンを真似したんです。尼崎に、お客さんがいっぱい入ってくれていたし…」。興奮のあまり、いつもはしない派手なポーズをとっていた。この日の尼崎のスタンドが、「いつもとは違う景色」だったということだ。
5ゴールは渡邉自身「キャリアハイ」の数字だ。両耳に手をあてるのはサッカー・アルゼンチンのリケルメが有名だが、渡邉のポーズは右耳でのパフォーマンス。地元の人にネーミングを募集するのもいいかもしれない。
29日、30日のバックス戦を前に、渡邉は「古巣相手だからこそ、自然とモチベーションは上がってくる」という(ⒸSTARS KOBE) 「アイスバックスに入ったころはプロは25歳までと決めていたんです」 渡邉は日光東中学校の1年・2年時で、全国中学校大会で優勝した経験を持っている。
「ホッケーはもちろん好きで、楽しくてやってはいたんですけど、うまくなろうという意識は、今思えば微妙だった気がします」
日光東中の選手は、その後、全国の強豪から誘いの声がかかった。渡邉のもとにも私立高校からの誘いがあったが、日光に残って、日光明峰高に進んでいる。
「私立校に行くのは両親に負担がかかりますし、中学時代はホッケーを漠然とやっていただけですから。練習でも、ただ与えられたメニューをやっていただけで…。だから日光を出ていこうとは思わなかったんです」
日光明峰高に入ると、渡邉の成長曲線のベクトルとホッケーへの意欲が、やっと結びついた。大型選手の特徴だろうか。「DF・渡邉亮秀」の名前が全国で脚光を浴びていき、2年生でインターハイ準優勝。東洋大学では1年目から主力DFとなり、卒業後は地元アイスバックスでプロになった。
「高校の1年生、2年生で、僕は変わったと思います。アイスホッケー選手になるというのが、高校でははっきり目標に変わった。先輩に刺激を受けて、バックスの練習にも入れてもらうようになったんです」
アイスバックスでプレーしたのは4年(東洋大4年時の後半からリーグ登録をしており、正式には4年と3カ月)。それから2年間は、東北フリーブレイズに在籍した。今夏からスターズ神戸に移籍。早いもので、プロでプレーして7年目になる。
「今季、僕は29歳のシーズンになるんですが、バックスに入った当時は、25歳でやめようと考えていたんです。人生、本当に何があるかわからない。今は、自分から限界を決めるのはよそうと思っているんです」
「アイスバックス、そしてフリーブレイズとの試合は、自分にとって特別なものです。特にモチベーションを上げようとしなくても、体が自然と反応してしまうんですよ」
29日・30日に対戦するアイスバックスとの差は「もう少しだと思う」と渡邉は言う。「経験の差、ラッキーかアンラッキーかというのは、勝負では大事なものです。ラッキーな部分をいかに離さないか。そこがカギになると思うんです。1勝目を挙げられれば、チームはさらに伸びることができる。僕が思っている以上に、このチームは成長していますから」
そして渡邉自身も、成長している。高校からようやく「アイスホッケー選手になりたい」と目覚めた、遅咲きの選手。11月2日の「歓喜のポーズ」を見てしまうと、まだまだ続きがある気がしてならないのだ。
※11月29日(土)と30日(日)の「スターズ神戸」と「H.C.栃木日光アイスバックス」2連戦の詳細は、スターズ神戸の公式サイトをご参照ください。
渡邉亮秀 わたなべ・あきひでスターズ神戸・DF。背番号「46」。身長183センチ・体重84キロ。1997年3月9日生まれ。栃木・日光野口小3年から日光イースタンでアイスホッケーを始め、日光東中の1年、2年時には全国中学校大会で日本一に。日光明峰高では2年時に、インターハイで準優勝する。東洋大学を経て、卒業後はアイスバックスへ。バックスでは4年間プレーし(アジアリーグでは登録5年)、2023-2024シーズンから2年間は東北フリーブレイズへ。今季からはスターズ神戸へ移籍する。「僕が今、住んでいるのは神戸の三宮近辺。そこまで人が多いわけでもなく、上品で親切な方が多い、フレンドリーなイメージです。新しい友達もできましたよ。外食は基本的にしないんですが、こないだは家で、おでんを作りました。ちょっと作りすぎちゃって、3日、4日かけて食べたんです」