今季からアジアリーグに加盟した「スターズ神戸」。ここまで11試合を行なっており、11月20日現在、勝ち星を挙げるには至っていない。11月29日・土曜日は16時から、30日・日曜日には14時から、地元・兵庫の尼崎スポーツの森アイススケートリンクで、前身の古河電工チームを含めて創部100年の「栃木日光アイスバックス」2連戦が予定されている。スターズには日光にゆかりのある選手やスタッフが多く、いっそう気持ちが高ぶっているようだ。今日はスターズ神戸のGK、小野寺真己(おのでら・なおき)選手に話を聞いてみた。「アイスバックスの選手になって、霧降アリーナで歓声を浴びてみたい」 10年前までは「遠い夢だった」ものが、今は現実に「そこで待っている」。今月末に行われるアイスバックスとの2連戦は、小野寺にとって、なんとも「因縁」めいた試合なのかもしれない。
小野寺は1997年1月、日光で生まれた。地元のクラブチームでホッケーを始め、強豪の日光東中学校へ。そこには、「中学生として世界一厳しい」トレーニングが待っていた。1年と2年の時には、全国中学校大会で優勝。アイスホッケー部に入るために、学区外から電車を使って通ってくる子も多かった。
「入部した時は、まあ…びっくりしました。でも1年の時の全国で優勝して、やってきたことは間違いじゃないと思った。それからは、必死こいて練習しました」。2年生まではサブキーパー。3年生でようやく、メインのゴーリーになった。
高校は日光明峰高へ。霧降アイスアリーナでのアイスバックスの試合では、日光明峰高のアイスホッケー部がボランティアで試合を手伝っているが、小野寺は試合用のゴールを出しながら「いつか、バックスの選手としてプレーしたい」と思っていた。「子どものころからずっと、バックスの選手は憧れの存在でした。霧降のお客さんの前で歓声を浴びたい。そう思っていたんです」。春名真仁、橋本三千雄、現役の福藤豊と、伝統的にアイスバックスにはGKに名選手が多い。ゴーリーの小野寺にとって、バックスのユニフォームを着ることは一大ステータスだった。
日光明峰高では2年の冬に、八戸インターハイで準優勝する。1コ上にDF大津夕聖(HLアニャン)、FW乾純也(元アイスバックス)、同期には今季スターズで一緒になるDF渡邉亮秀がいた。
高校卒業後は、いったん関東の大学へ。しかし、1年生の途中で「転機」を迎える。
「中学時代から、海外へ行きたい気持ちがどこかにあったんです。タイミング的に、今しかないんじゃないか。後悔だけはしたくないと思って覚悟を決めました」
カナダ、翌年はアメリカ、3年目は再びカナダのジュニアリーグでプレーする。だが、その「先の進路」が見つからなかった。「アイスホッケーへの夢、ここで踏ん切りをつけようと思いました。日本に帰って就職する。そう決めたんです」
「真己は、チームのよくない流れを変えるビッグセーブがあるんです」と、GK出身の米泉光マネージャー。これからは1日も早いリーグ出場を目指す(ⒸSTARS KOBE)「アイスホッケーをやり続ける。やり続ければ、夢は叶うんだ」 小野寺が就職したのは6年前、勤務地は初めて住む「京都」だった。公園の土地を借りて、スポーツをしたり、遊び場を提供する仕事だった。ホッケーは「全関西実業団リーグ」のチームに所属。「実業団」と名前はいかついものの、要はクラブチームのリーグだ。普段は仕事をして、夜に集まって試合をする。ホッケーを突きつめるというよりも、楽しむことに重点を置いた「ファン・ホッケー」だ。
そんな小野寺に、ひとつの「転換点」があった。
2022年1月に行われた、冬の国体。小野寺は、正キーパーとして4位に京都代表を押し上げる。会場は、霧降アイスアリーナ。小野寺はこう思った。「アイスホッケーは、あらためて楽しいものなんだ。俺にとって、特別なスポーツだ」と。
そして昨シーズン、無視できない情報が小野寺の耳に入ってきた。関西で、プロのアイスホッケーチームができる。チーム名は、スターズ神戸。早ければ、2025年からアジアリーグに加盟するらしい、とのことだった。
2月15日、16日。28歳になった小野寺はスターズの「トライアウト」を受ける。結果は合格。「仕事のことはありましたけど、それはなんとかなると思いました。アイスホッケー選手は、小さいころからの夢。断る選択肢はありませんでした」
7月。チームに合流して、初めての「プロ」としての生活がスタートした。
「それまでアマチュアでのプレーだったので、最初のころには不安がありました。でも、声を出したり、チームを盛り上げていくことは、誰でもできる。そういうところで、チームの役に立てたらと思うんです」
「高校、大学の選手には、あきらめなければチャンスが巡ってくると言いたいです。アイスホッケーを、とにかくやり続ける。やり続ければ、いつかは叶うと思うんです」
小野寺がトップリーグに進んだ理由。「運」「タイミング」、それも確かにあるだろう。でも、アイスホッケーを「やり続ける」こと、それ以上に強いものはなかったはずだ。
スターズ神戸とアイスバックスとの試合。それは小野寺にとって「因縁」なのか。
違う。この縁は、すべて毎日の生活の中で少しずつ準備されていたのだ。
※11月29日(土)と30日(日)の「スターズ神戸」と「H.C.栃木日光アイスバックス」2連戦の詳細は、スターズ神戸の公式サイトをご参照ください。
小野寺真己 おのでら・なおきスターズ神戸・GK。背番号「33」。身長175センチ・体重72・5キロ。1997年1月14日生まれ。栃木・日光小林小2年の時に「今市ボンバーズ」でアイスホッケーを始め、日光東中の1年、2年時には、全国中学校大会で連続日本一になる。日光明峰高を卒業後に、カナダのロンドン・レイカーズ、アメリカのシアトル・トーテムス、3年目は再びロンドンでプレー。その後は日本に戻り、京都で仕事に就く。今季、スターズ神戸へ加入。「今は神戸に引っ越しましたが、京都は長く住んでいたので詳しいと思います。三十三間堂は今でも感動していますし、嵐山の天龍寺の龍の絵は圧巻なんです」。関西に住んで7年目、言葉の節々に、京都弁が。