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2025-11-23

【アイスホッケー】スターズ神戸とアイスバックス④ 在家秀虎

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中2で日光東に転校した在家。日光にいる時は、アイスバックスでもプレーしたDF尾野貴之をお手本にしていた(ⒸSTARS KOBE)

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 今季からアジアリーグに加盟した「スターズ神戸」。ここまで11試合を行なっており、11月20日現在、勝ち星を挙げるには至っていない。11月29日・土曜日は16時から、30日・日曜日には14時から、地元・兵庫の尼崎スポーツの森アイススケートリンクで、前身の古河電工チームを含めて創部100年の「栃木日光アイスバックス」2連戦が予定されている。スターズには日光にゆかりのある選手やスタッフが多く、いっそう気持ちが高ぶっているようだ。今季、横浜グリッツからスターズ神戸に加入した、DF在家秀虎(ざいけ・ひでとら)選手に話を聞いてみた。

中2で日光東にホッケー留学
「まるで大人のチームでした」

 自分の「ふるさと」はどこだろう。ふと、在家秀虎は考えるのだ。

 アイスホッケーを始めたのは、青森県八戸市。それから小学5年生から中学1年まで、お父さんの仕事の関係(スケートリンクの支配人)で宮城に移った。その後は、日光市、高校はさいたま市。大学は慶應義塾だったから、授業も練習も神奈川だった。

 当時、中学1年生。在家が宮城・仙台のクラブチームで、アイスホッケーをやっていたころの話だ。

 全国中学チャンピオンの日光東中が、仙台のリンクに強化合宿にやって来た。

「そのとき、僕は日光東の練習に乗らしてもらったんです。最初の練習の時点で、あ、このチームでやりたいな…というのが僕の気持ちの中にありました」。その日、家族、そして日光東中のチーム関係者に「転校したい」という希望を打ち明けている。

 日光東中の山中信雄ヘッドコーチ(元古河電工FW)が、合宿の世話に来ていた父母会に話しかけた。「どこかの家で、在家君を受け入れてくれる家族はいますか?」。手を挙げてくれたのが、DF渡邉亮秀(スターズ神戸)の家だった。中2の学年が始まると、単身で日光へ。以後2年間、渡邉の家族とともに日光でのホッケー生活が始まった。

 日光東中は、選手層が豊富だった。FWは、ダブルエースの寺尾勇利(現アイスバックス)と山田大雅(元東洋大学主将)。それに、この2人を巧みに扱う、乾純也(元アイスバックス)がいた。2年生のFWに松渕雄太(フリーブレイズ)、DFにハリデー慈英(レッドイーグルス)。これに在家が加わり、日光東は前年に続き中学連覇を成し遂げる。

「まるで大人のチームでした。特にキャプテンの寺尾さんはすごかった。準決勝の帯広八中との試合、寺尾さんは痛み止めの注射を打って、9得点全部にゴール、アシストを記録しているんです。決勝は釧路の鳥取中で、地元の鳥中は全校応援。アウエーの雰囲気の中で、先制は大雅さん、そこから寺尾さんがハットトリックをして4-2で勝ったんです」

 日光東中では「地元チーム」アイスバックスの試合を、つぶさに見ていた。

「憧れの目で見ているよりも、技術を学びたいという気持ちのほうが大きかった気がします。お手本にしていたのが、DFの尾野貴之さん。コーナーでダンプされた時のフェイクの仕方とか、尾野さんのプレーの中には、プロらしいヒントがたくさん詰まっていると思いました」

 アジアリーガーとして2年目のシーズン。今季はチームの中心DFとしての期待がかかっている(ⒸSTARS KOBE)
アジアリーガーとして2年目のシーズン。今季はチームの中心DFとしての期待がかかっている(ⒸSTARS KOBE)

NHLを見て「本当にやりたかったのは
アイスホッケーだったんじゃないかって」

 高校はハリデー、松渕ら、日光東中の同期5人と埼玉栄高校に。大学は、慶應義塾へ進んでいる。

 慶應4年生の1月、在家はこう言っていたことがある。

「僕は、アジアリーグには行きません。大学4年間は大学日本一を目指していましたが、最高の仲間とホッケーができた。慶應では早慶戦があって、満員の中で試合をすることもできました。もし、早慶戦を経験していなかったら、僕はアジアリーグに行っていたかもしれないけど、自分なりに、ホッケーはやりきった気持ちでいるんです」

 それから1カ月後。卒業旅行でNHLの試合を見に行ったことで、在家の中の「何か」が変わった。

「世界最高峰の戦いを見て、整理しきれない感情が沸いてきました。本当に不思議なことですが、試合を見ながら、涙が出てきて止まらなかったんです。就職活動で蓋をしていたけど、自分が本当にやりたかったのは、アイスホッケーだったんじゃないか。そう思ったんです」

 4月。社会人生活が始まった。「まずは3年間、仕事に打ち込もう。卒業旅行でNHLを見たときと同じように、仕事で自分の命を燃やすんだ」。在家はそう思っていた。

 それから3年間が過ぎた。振り返ってみても、仕事は懸命にやってきた気がする。だけど…。会社で社会に貢献するのと、ホッケーで社会に貢献するのと、どちらが世の中の役に立てるのか。悩みに悩んだ結果、在家は辞表を出した。

 在家は、横浜のスケートリンクで働き始めた。やがて横浜グリッツの練習生へ。2024-2025シーズン、正式に選手登録を勝ち取り、アジアリーガーとなった。

 そして、今季からスターズ神戸に加入。リーグ2年目のシーズンを迎えている。

「スターズは、本当にいいチームなんです。まず、選手それぞれにバックグラウンドがある。フロントも、真剣にクラブの経営を考えている。チームは文化というものが大切だと思っているんですが、スターズ神戸には、いい文化が育ってくる、そんな気がしているんです」

 在家の人生には、これまでで2つ、「ふるさと」と呼べるものがあったような気がする。

 中学日本一を目指し、それが叶った日光東。そして、大学日本一を目指していた慶應だ。

 今季、在家は「スターズ神戸」という、3つ目の「ふるさと」にたどりついた。

 尼崎、はたまた神戸のリンクで。感動につかまって、なぜか涙の止まらない瞬間を迎えたそのときに、もしかしたら在家の「旅」もクライマックスを迎える気がする。

※11月29日(土)と30日(日)の「スターズ神戸」と「H.C.栃木日光アイスバックス」2連戦の詳細は、スターズ神戸の公式サイトをご参照ください。

在家秀虎

在家秀虎 ざいけ・ひでとら
スターズ神戸・DF。背番号「2」。身長170センチ・体重75キロ。1997年1月12日生まれ。青森県八戸市出身。八戸下長小2年の時に八戸南ジュニアでアイスホッケーを始め、その後、小学5年から宮城・東向陽台小(仙台ジュニア)へ。中学2年の春から栃木・日光東中に転校し、全国中学校大会で優勝する。卒業後はハリデー慈英(レッドイーグルス北海道)、松渕雄太(東北フリーブレイズ)ら日光東中の同期5人と埼玉栄高校へ。その後、慶應義塾大学に進学し、一般就職の道を選択する。その後、再度アイスホッケー選手としてのキャリアを歩もうと決意し、2024-2025シーズンにアジアリーグの横浜グリッツへ。今季からスターズ神戸に加入する。新神戸の家でGK石田龍之進、DFイ・ミンジェ、FW根岸一喜と同居中。「神戸は、海もそうなんですけど、山が近いんです。新神戸のおすすめは、布引のハーブ園。散策するには最適だと思います」

山口真一

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