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2025-12-05

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第33回「力士とは」その4

平成31年初場所4日目、横綱稀勢の里が引退会見。涙を見せたということは悔いがあったのだろう

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物思う秋が更けていきます。
それにしても、人間っておもしろいですね。
いろんな面を持ち、見方によって全然違う人間に思えてきます。
力士もそうです。
一瞬の勝負に人生を賭ける力士たちは、実に崇高な精神の持ち主に思えます。
だって、迷ったり、雑念を抱いていては勝負に集中できず、勝てませんもの。
しかし、実際はどうでしょう。力士たちも、やはり同じ人間。
笑ったり、ぼやいたり、ため息をついたり、実にさまざまな顔を持っています。
力士とは何ぞや。
さあ、晩秋、いや、もう初冬ですか。とにかく夜長です。
力士たちの隠れた顔を捜してみましょう。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

悔いはあるのでは

力士の言葉ほど、当てにならないものはない。とりわけ場所前の言葉は、大ウソのかたまりだ。
 
平成31(2019)年初場所と言えば、カリスマ的な人気を誇った横綱の稀勢の里(現二所ノ関親方)が前の場所も1勝もできないまま休場し、力士生命の大ピンチを迎えていた場所だ。
 
ただ、本人は強気一点張り。初日の3日前にも取材に応じ、こう答えている。

「去年からいい稽古ができている。非常に順調に来ていると思います。あとは場所に臨むだけ。思いどおり(の状態)に近づいている」
 
ちょっと番数が少ないように見えたが、という質問にも、こう切り返した。

「みなさんは番数(を取り上げるの)が好きだけど、そうじゃない。人とやる稽古もあれば、自分に向き合う稽古もある。不安はない」
 
まるで胸を叩かんばかりの言葉だ。これを聞いて報道陣の多くは安心したが、蓋を開けると、自分の力を出し切れない不完全燃焼の相撲でいきなり初日から3連敗。4日目の朝、ついに引退届を提出してしまった。
 
場所前の言葉はまったく当てにならなかったのだ。引退会見で、稀勢の里はこう言って声を詰まらせ、涙をこぼしている。

「私の相撲人生において、一片の悔いもございません」
 
本当に悔いはなかったのか。力士はカメレオン。ゆめゆめ信用してはいけませんぞ。

月刊『相撲』令和3年12月号掲載

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